「彼だけが持つ当たりくじ」グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
彼だけが持つ当たりくじ
まず脚本が素晴らしいのだろう。
導入部分でウィル・ハンティングという男の魅力に取り憑かれてしまう。
スラム街出身で孤児のウィルは大学の清掃員の仕事をしているが、実は学生どころか教授を含めてもずば抜けた数学の才能を持っている。
しかし付き合う連中は気を置けないものの粗野な者ばかりで、彼自身何度も警察の世話になっている。
彼の素行の悪さと知的な言動のアンバランスさが実に面白い。
ある日、彼の才能を見抜いた数学教授のジェラルドは、更正させるために彼に心理カウンセリングを受けさせる。
もし彼が更正しなければ再び鑑別所行きとなってしまう。
しかし数学の問題を解くことには協力的なウィルだが、心理カウンセリングだけはまともに受けてくれない。
ジェラルドは最後の手段として学生時代の友人ショーンにカウンセリングを依頼する。
初めは他のカウンセラー同様に無礼な態度でショーンの内面に土足で上がりこむウィル。
しかし彼が自分と同じような心の傷と孤独を抱えていることを知ったウィルは、次第に彼と打ち解けていく。
まずこの二人のファーストコンタクトから目が離せない。
ウィルがショーンとのやり取りのどこに引っかかったのか、その言動のひとつひとつがとても興味深い。
ウィルが虚勢を張ったり、相手を突き放したりするのは、何かを恐れているからだ。
彼は愛を知らずに育った。
そして自分が類稀なる才能を持っていることを自覚しながらも、拒否されたり捨てられたりする恐れから、自分の殻を破ることが出来ない。
彼はスカイラーという魅力的な女性と恋に落ちるが、再び孤独になる不安から彼女を突き放してしまう。
ショーンは彼のそんな孤独な心に寄り添い、決して彼に何かを無理強いしようとはしない。
そこがジェラルドとの大きな違いだ。
しかしそれでもショーンはウィルに自分の殻を破るべきだと諭し続ける。
改めて他人は自分の姿を写す鏡なのだと気付かされた。
実は最愛の妻を失ったショーンもまた新たな人生を歩むことを諦め、自分の殻に閉じこもってしまった人間なのだ。
なのでこの映画で成長するのはウィルだけでなくショーンも同じだ。
そしてジェラルドも。
ウィルの親友であるチャッキーの存在もかなり大きいと思った。
彼はウィルが宝くじの当たりくじを持ちながら、それを現金に換えることを恐れていると指摘する。
彼はウィルが友人でいてくれることに喜びを感じると同時に、彼の将来のために彼が自分の前から消えてくれることを望んでもいる。
ウィルは他の人には出来ないことが出来る。
だから自分の殻を破って外の世界に飛び出すべきなのだと。
チャッキーのような男こそ本当の友人想いなのだろう。
最後にウィルが選択した道が本当に素晴らしいものなのかどうかは分からないが、彼が外の世界に踏み出したその勇気に感動させられた。