劇場公開日 2004年8月14日

華氏911 : インタビュー

2004年8月26日更新

「ボウリング・フォー・コロンバイン」でアメリカの銃社会に切り込み、続く本作「華氏911」ではついにブッシュ政権に宣戦布告した稀代の曲者マイケル・ムーア。「華氏911」の政治的側面ばかりが取りざたされる昨今だが、そもそもマイケル・ムーアもひとりの映画作家である。彼の映画に対する思いを町山智浩氏が聞いた。(聞き手:町山智浩)

マイケル・ムーア監督インタビュー
「1番好きな映画は『時計じかけのオレンジ』さ」

8月18日、ミシガン州のトラバース・シティという湖畔のリゾート地で休暇中のマイケル・ムーアの元に押しかけた。「1年ぶりの休暇だってのに取材なんか受けて、奥ちゃんに離婚されちゃうよ」とブーたれるムーア。すいませんねえ。

カンヌ映画祭に出席した際の マイケル・ムーア監督
カンヌ映画祭に出席した際の マイケル・ムーア監督

さて、政治的な質問はみんなもう飽き飽きだよね? やっぱりeiga.comだし、特に映画についての話を聞いてみた。

――とうとう「ジョン・キャンディの大進撃」が現実になりましたね。

「まったくね(笑)!(『ジョン・キャンディの大進撃』は94年にムーアが作った唯一の劇映画。冷戦が終結して敵がいなくなったアメリカ政府は、軍事費拡大のため、カナダを仮想敵国にデッチ上げる。これはイラク戦争で見事に実現してしまった)あの映画はパナマ侵攻を見て思いついたんだ。こんな愚行が繰り返されることになるとはね。でも、パナマや湾岸戦争は大統領の支持率を上げたけど、イラク戦争の場合は結果的にブッシュの人気を落としてるよ」

――「華氏911」を観てるとチャップリンの「独裁者」(40)を思い出します。どちらも1人の映画作家が戦争を起こしている国家元首にコメディ映画という武器で孤独な戦いを挑んだ映画ということで。

「チャップリンはね、単にコメディアンとして記憶されることが多いけど、実際はとても政治的な作家だった。政治的すぎて最後は政府のブラック・リストに載せられ、アメリカから追放されてしまった。チャップリンはサイレントの短編の頃からいつも貧しくて小さな浮浪者を演じ、権力者に立ち向かった。敵役はいつも横暴な経営者や、警官や、過酷な工場だったろ? チャップリンは悲劇的現実を喜劇として描いた。ギリシャの演劇の仮面と同じで悲劇と喜劇は表裏一体なのさ。僕の映画も銃犯罪や戦争という悲劇を喜劇として描いている。チャップリンの笑顔の裏には現実に対する怒りが隠されている。素晴らしいコメディアンはみんなそうさ。リチャード・プライヤーは怒れる男だった。レニー・ブルースも怒れる男だった。彼らは人種差別や不平等への怒りをギャグで表現していた。人々を笑わせてメッセージを伝える。僕も彼らのなかの1人なんだ」

ブッシュの行動はお笑いの演技?
ブッシュの行動はお笑いの演技?

――でも「華氏911」ではあまり出演してませんね。

「まあ、お笑い演技ではブッシュには勝てないからね(笑)」

――「華氏911」は、ブッシュのフッテージをコラージュしただけで、とてもドキュメンタリーとは呼べない、という批判がありますが、彼らは「アトミック・カフェ」(82)のことを知らないのでしょうね(冷戦中の政府の核戦争プロパガンダ映画をコラージュした反核ドキュメンタリー映画の傑作)。

「『アトミック・カフェ』を作ったケビン・ラファティは僕の師匠だ。僕は92年頃、雑誌の編集部をクビになって、週にバイトで99ドル稼ぐのがやっとだった。故郷の町フリントはGMの工場が閉鎖になって職場はなかったんだ。その時、たまたまラファティに会って、ドキュメンタリー映画を撮るよう勧めてくれたんだ。そして『ロジャー&ミー』を撮り始めたんだけど、半分くらいは彼が撮影してくれた。そして、今の僕がある。でも、後から、ラファティがブッシュの従兄弟だと知ったんだ」

――彼に教えてもらった映画という武器で今、ブッシュと戦っている。神の御業ですね。

「まったくね。よくできてるよ。カルマってやつかね(笑)」

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インタビュー2 ~マイケル・ムーア監督インタビュー(2)

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