エターナル・サンシャイン : インタビュー
「エターナル・サンシャイン」はこうして生まれた
「エターナル・サンシャイン」のシナリオが完成した時、カウフマンはスパイク・ジョーンズ監督の「マルコヴィッチの穴」でオスカー脚本賞にノミネートされ、時の人になっていた。シナリオを読んで出演を希望したのはギャラ2500万ドルを取るスター、ジム・キャリーだった。
「正直、困ったよ。彼はこの映画の役柄と正反対のキャラクターだからね」
カウフマンは言う。「エターナル・サンシャイン」の主役ジョエルは、若い恋人クレメンタインから「退屈だし、オドオドしてて嫌」という理由で捨てられる気の弱い中年男だ。カウフマンの前作「アダプテーション」はカウフマン自身が主人公だったが、このジョエルも彼の投影だ。
「僕は本当にシャイで人前に出るのが嫌いなんだ。インタビュー嫌いだから気難しい男だと思われたみたいだけど、本当は恥ずかしがり屋なだけなんだよ」
とにかくゴンドリーはキャリーに会ってみることにした。「ブルース・オールマイティ」のセットを訪ねると、キャリーは相変わらず躁病的なキャラを演じていたが、ショットの合間に見せる素顔は物憂げで淋しげだった。ゴンドリーはこれだと思った。
「でも、撮影に入ったらキャリーはいつものノリでアドリブをし始めたんだよ。だから、僕はカメラを回さなかった」
それに気づいたキャリーが怒るとゴンドリーはカメラを回した。演技を撮らず、素のキャリーだけを撮るゴンドリーの手法にイラつくキャリーを「僕は演技じゃなくて君自身が欲しいんだよ」と説得した。キャリーに限らずゴンドリーは「スタート」も「カット」もなくリハからずっとカメラを回しっぱなしにする主義だ。「スタート!と言った瞬間に俳優の演技はONになるけど人間はOFFになってしまうからね」
逆にクレメンタイン役のケイト・ウィンスレットには「思いっきり好きなように演じていいよ」と煽った。この映画ではジム・キャリーがケイト・ウィンスレットがいつも演じているような内気な役で、ウィンスレットがキャリー的なクレイジーな役なのだ。
「エターナル・サンシャイン」は、主人公ジョエルの記憶を消去する作業と、現在から過去へと遡って消されていくジョエルの記憶が交互に描かれる。しかも記憶は時間軸どおり並んでいるわけではない。ゴンドリーとカウフマンはジョエルの記憶の地図を作成し、場面ごとに地図を見ながら、記憶のどの時点にいるのか確認しながら撮影していった。
ゴンドリーは、観客の意識が恋愛というテーマから離れないよう、派手なSFXを避けた。ジム・キャリーが記憶の中で過去の自分自身を見るシーンでもCGやデジタルは一切使わず、現場でこう指示した。「カメラがパンしている間に衣装を着替えてカメラの背後を通ってパンする先に先回りして」
キャリーが記憶を消されまいと幼児期の記憶に逃げ込んで子供の大きさになる場面では、昔の「だまし絵」のように遠近法が逆になったセットを組んだ。赤ん坊に戻って母親にお風呂に入れてもらう場面では、巨大なキッチンシンクと巨大な母親の腕を作った。
ゴンドリーはさらに素のキャリーを引き出すため、キャリーを尋問して過去の辛い恋愛体験を告白させた。2度の結婚の失敗や、レニー・ゼルウィガーとの別れなど、忘れたいことのほうが多いキャリーは「カサブタをはがされるような感じだったね」と言っている。
常にハリウッド映画の定型から外れたシナリオを書いてきたカウフマンは、「エターナル・サンシャイン」にもハリウッド風ハッピーエンドへの反発があるという。「ハリウッド映画は男女が互いに愛を告白したらそこでハッピーエンドになってしまう。でも、現実の恋愛はそこから始まる。脚本を書いていると思わずハリウッドの紋切り型に引きずられてしまうけど、僕はそんなウソを描くことはできない。『めでたしめでたし』で映画館を出たら忘れてしまう映画にはしたくない。この映画がハッピーエンドなのかどうか、それを決めるのは観客だ。映画館を出た後、話し合って欲しい」