劇場公開日 2025年12月12日

「圧倒的な熱量で紡がれる一大叙事詩。その新たな姿」バーフバリ エピック4K 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 圧倒的な熱量で紡がれる一大叙事詩。その新たな姿

2025年12月19日
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鑑賞方法:映画館

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幸せ

《IMAXレーザー》にて鑑賞。
【イントロダクション】
世界中で一大ブームを巻き起こした『RRR』(2021)のS・S・ラージャマウリ監督による過去作、『バーフバリ 伝説誕生』(2015)と『バーフバリ 王の凱旋』(2017)を1本の映画として再編集し、4K対応にコンバートした作品。
かつて滝の上の空に聳え立つ美しい王国で起きた王位継承争いと、地位を剥奪され暗殺された王子の意志を継いだ息子の戦いを描く。
主演は、今年日本公開もされた『カルキ2898-AD』(2024)のプラバース。

【ストーリー】
遥か遠い昔。巨大な滝の上に聳え立つマヒシュマティ王国では、王位継承を巡る争いが起きていた。王国の遥か下に位置する川では、とある高貴な身分の女性が1人の赤子を抱えて追っ手から追われていた。女性は追っ手を退けるも、赤子と共に川に落ちてしまう。女性は赤子を川の奔流から守る為、自らの命と引き換えに、死して尚、赤子を天に掲げ続けた。
やがて、赤子は滝の下の村人達に助けられ、シヴドゥと名付けられて育てられた。
シヴドゥは幼い頃から、まるで導かれるかの如く滝登りに挑戦し続け、育ての親である母・サンガ(ローヒニ)の心配も他所に、来る日も来る日も滝登りに挑戦し続けた。

やがて、25年の月日が経ち、シヴドゥ(プラバース)は逞しく立派な青年に成長していた。ある日、彼は自らの滝登りを止めさせるべく、導師の助言で村に祀られているシヴァ像に水掛けの願掛けを行うサンガの労力を減らすべく、石像を担ぎ上げて滝の下に設置する。
この行いにより、シヴドゥは滝登りを止めるが、ある日滝の上から落ちてきた木彫りの仮面を拾い、仮面の持ち主である女性に会いたい一心から、再び滝登りに挑む。女神の導きにより滝を登り切ったシヴドゥは、その先で美しき女戦士アヴァンティカ(タマンナー・バティア)と出会い、恋に落ちる。しかし、アヴァンティカは暴君バラーラデーヴァ(ラーナー・ダッグバーティ)の圧政に抗う反乱軍の戦士であり、彼女達は25年間王宮の庭に鎖で幽閉され続けている王妃デーヴァセーナ(アヌシュカ・シェッティ)の救出を目指していた。

アヴァンティカはシヴドゥを置いてデーヴァセーナの救出に向かうが、マヒシュマティの兵隊によって追われ、雪山へと逃げ込む事になり、駆け付けたシヴドゥの助けもあって大きな雪崩を起こして追っ手を回避する。しかし、アヴァンティカは足を負傷してしまい、彼女を愛するシヴドゥは、自分が王妃の救出に向かうと宣言して王宮へと向かう。

一方、マヒシュマティではバラーラデーヴァと息子のバドラ(アディヴィ・セッシュ)らが、バラーラデーヴァの誕生日と彼の威光を讃えるべく、巨大な黄金像を建立させていた。建立の為鞭打ちで働かされる人々。1人の老人が誤って綱を離してしまったことで黄金像が倒れ掛けるが、シヴドゥが力添えし、超人的な力で倒れる黄金像を元に戻す。老人は一瞬だけ素顔を見せたシヴドゥの姿に、かつてのマヒシュマティ王国の若き王子アマレンドラ・バーフバリ(プラバース)の姿を見て、彼の名を叫ぶ。その叫びは人々へと伝播し、やがて巨大な叫びとなって国中に響き渡る。

その夜、バラーラデーヴァは最初にバーフバリの名を口にした者を探し出そうと兵達に問いただすが、兵士に紛れて忍び込んだシヴドゥは小火騒ぎを起こして王宮内を混乱させる。隙を突き、鎖に繋がれたデーヴァセーナを救出して馬車で逃亡するが、途中でバドラ王子の部隊に捕らえられてしまう。
シヴドゥは兵士達を打ち倒し、バドラの首を討ち取ろうとするが、駆け付けた王宮の老兵・カッタッパ(サティヤラージ)と一騎打ちになる。その場にはアヴァンティカをはじめとする反乱軍、滝の中にある洞窟を登ってやって来たサンガ達も駆け付ける。カッタッパの剣を奪ってバドラの首を刎ねたシヴドゥの姿に、カッタッパはかつての主人であるバーフバリの姿を重ねて平伏する。
そして、かつてマヒシュマティ王国で起こった王位継承争いについて語り出すのだった。

血生臭い戦と計略の数々が尽くされた王位継承争いの末、バラーラデーヴァは王位に就き、民衆の心を掴むバーフバリを暗殺してその心を挫き、以降恐怖政治によって民を抑圧し、デーヴァセーナを鎖に繋いで幽閉したのだ。

全てを知ったシヴドゥは、亡き父の無念と暴君による圧政を終わらせるべく、人々を束ねてバラーラデーヴァの打倒を目指す。

【感想】
元々の作品が、『伝説誕生』(以下、前編)は138分(完全版は159分)、『王の凱旋』(以下、後編)は141分(完全版は167分)と、合わせて279分(完全版なら326分!)と、約5時間ある作品を再編集して1本に纏め上げたので、本作の尺は225分(3時間45分)という超長尺!それでも、元の作品からは約1時間(54分)もカットされている。

IMAXにて鑑賞したが、通常スクリーンでの上映では前編と後編の物語の切り替えの際に、10分間の休憩を挟むのに対して、IMAX版では途中休憩なしという、観客の膀胱の耐久力が試される無情の上映形態である。しかし、幸運な事に本作の圧倒的な熱量と面白さに没入し、上映終了まで尿意を感じる事なく鑑賞し終えた。いやいや、圧巻の一大叙事詩であった。

『伝説誕生』の2017年の日本公開当時、Twitterでの一部界隈の盛り上がりは目にしており、その熱狂ぶりから本作がインド映画史における重要な1作である事は知っていた。なので、個人的にはインド映画の日本での盛り上がりを最初に目にしたのは、『RRR』ではなく本作である。

再編集の都合で、主にシヴドゥとアヴァンティカとのロマンスがカットされた様子なのだが、ナレーションとダイジェスト映像でそれを示すという大胆な省略には笑った。また、前編のラストである「バーフバリを裏切って暗殺したカッタッパ」と、後編の頭であるバーフバリの過去についてを橋渡しする際(本来なら、ここが休憩時間となっていた様子)、《カッタッパは何故バーフバリを裏切ったのか。その真相を知るまでに、もう2年も待つ必要はない》とテロップ表示される瞬間も印象的だった。2年の待ち時間が僅か10分(IMAXなら0秒!)に。

そんな大胆な省略故、シヴドゥことマヘンドラ・バーフバリへの感情移入がやや難しくなってはいるが、カッタッパによって語られる父アマレンドラ・バーフバリの過去と、マヘンドラがアマレンドラの生写しである点から、クライマックスでは無理なくマヘンドラの叛逆に感情移入し、彼を応援出来るようになっている。

マヒシュマティ王国をはじめとしたCGのクオリティが、前編ではよく出来たマインクラフトのようだったのに対して、後編では更なる予算と2年間の技術の進歩によって、レベルアップしている様子が伺えたのも一興だった。

【圧倒的な熱量によって描かれる貴種流離譚】
バーフバリ親子のそれぞれの境遇が、彼らが単に「特別な存在だから」というわけではなく、シヴドゥは幼少期からの過酷な滝登り、アマレンドラは国母シヴァガミ(ラムヤ・クリシュナ)による義兄バラーラデーヴァとの平等な英才教育の賜物だと描かれている為、それが彼らの超人的な強さにも一応の説得力を持たせており、納得が行く作りなのは見事。

また、平等に教育と愛情を与えられた(一部登場人物はそう思ってはいないが)以上、バーフバリとバラーラデーヴァの強さは拮抗しており、その精神は個々人の性格による違いだと受け入れられる。
だから、蛮族カーラケーヤとの戦争においても、戦争前の生贄の儀に対する、雄牛の首を刎ねるバラーラデーヴァと、自らの血でシヴァ神像に生贄を捧げるバーフバリとのそれぞれの向き合い方の違いも納得がいく。この辺りは少々、バーフバリが優等生過ぎてしまう気もするが、続く戦場において「最優先すべきは勝利か、民の命か」の選択では、バーフバリの高潔な精神が見事に描かれており、彼に王位を継承させようとするシヴァガミの思いも頷ける。
バラーラデーヴァは、あくまで勝利と王位継承の為、カーラケーヤ兵に捕らえられた人質の犠牲も厭わず、戦車(チャリオット)で突撃していく。一方、バーフバリは投擲縄で人質の足の自由を奪い、その場にうつ伏せにさせた上で敵兵を薙ぎ倒していく。この違いが、王と戦士を分つ決定的なシーンとなっており、鑑賞中胸が熱くなった。
「100人の敵兵を倒す者は“英雄”と呼ばれるが、1人の命を救う者は“神”と呼ばれる」
王位継承に不満を漏らすビッジャラデーヴァ(ナーサル)に対して、こう返したシヴァガミの台詞も響く。

そんな高潔な精神を持つバーフバリの人生に影を落とす事になるのが、クンタラ王国でのデーヴァセーナとの出会いである。身分を偽って王国で過ごすバーフバリに対して、バラーラデーヴァもまた肖像画を一目見た瞬間に彼女に恋し、バーフバリから彼女を奪うべくシヴァガミに妃に迎え入れる誓いを立てさせる。
この行き違いによる混乱が、その後のマヒシュマティの行く末を変えてしまう、デーヴァセーナを“運命の女”とした恋愛感情のもつれ故の破滅が滑稽ながらも魅力的である。

そして、数々の謀略を経て、遂にバーフバリはカッタッパの手で命を落とす。その顛末を聞かされ、怒りを胸にバラーラデーヴァからマヒシュマティを救おうとシヴドゥが決意する頃には、すっかり私の心の中にも「バーフバリ!バーフバリ!」コールが鳴り止まなくなっていた。

一部レビューで目にした“人間投擲”の真相が分かる瞬間の、「何コレ!?スゲー馬鹿じゃん!超好き!」という感覚で一杯だった。
また、過去回想ですら凶悪だったバラーラデーヴァの戦車の先端に取り付けられた回転釜が、現代では3つに増えている凶悪さマシマシっぷりにも「スゲー馬鹿じゃん!超好き!」となった。過去回想での初登場から既に、「何、その極悪な『ベン・ハー』みたいなやつ!?」と釘付けにさせられたが、再編集された事で一本の映画の中で更にお腹いっぱいにさせられるとは。

【ライムスター宇多丸さんも絶賛のラスト】
本作のパンフレットにインタビューが掲載されているライムスターの宇多丸さんのコメントにもあるように、シヴァ神像を滝の下に置いて威光を示して始まったシヴドゥの物語は、彼が王位を継承して民を導く宣誓をした後、打倒されたバラーラデーヴァの黄金像の首が滝下に落下して砕ける中で、滝に打たれるシヴァ神像で幕と閉じる。
神話にある「行って帰る」という物語構造が、こうした形で視覚化される演出は素晴らしい。これにより、シヴァ神は全てを見守り、バーフバリ親子を導いていたかのようでもあり、改めて本作は壮大な「神話」であったのだと感じさせられる。静かながらも神々しさを感じさせるこの幕引きを私は忘れる事はないだろう。

そして、本作オリジナルのS・S・ラージャマウリ監督による感謝のコメント。監督にとっても、本作が如何にキャリアにおいて大事な作品となったのか伝わってくる。
まさかのエンドロールなしには驚いたが。

【総評】
公開当時の熱狂ぶりも納得の、圧倒的な一大叙事詩。シンプルかつ普遍的な物語構造と、圧倒的なアクション演出、作品を流れる熱量に、初鑑賞ながらようやく私もこの熱狂に加わる事が出来た。

4K化された映像美を、IMAXの高画質と大スクリーンで鑑賞出来た事は、最高の映画体験となった。

そして、本作を鑑賞した事で、オリジナルの『バーフバリ』2部作への興味も抱いた。大胆な省略をされた本作だが、入門編としての役割は十分に果たしていたと思う。

緋里阿 純