「ジャッキーとレオンのベテラン、若手達の勢いあるアクション」シャドウズ・エッジ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
ジャッキーとレオンのベテラン、若手達の勢いあるアクション
【イントロダクション】
ジャッキー・チェン、レオン・カーフェイ出演。隠居生活中の追跡のエキスパートが、伝説の元暗殺者率いるサイバー犯罪集団を追うべく、若き精鋭を集めた追跡チームを結成する。
監督・脚本は、ジャッキー主演の『ライド・オン』(2023)も手掛けたラリー・ヤン。
中国にて4週連続興行収入ランキング1位を記録する熱狂的な盛り上がりを見せた。
【ストーリー】
マカオ。ネオン煌く華やかな街の裏で、正体不明のサイバー犯罪集団が暗躍していた。司法警察局は、AIプログラムを用いた追跡捜査を駆使するが、天才ハッカー・熙蒙〈シーモン〉(ツーシャー)による監視カメラ映像の差し替えにより、彼らを取り逃がしてしまう。
警察は、彼らが手に入れたのが富豪実業家の仮想通貨口座の暗号化キーだと知ると、マカオタワー内のデジタル資産管理会社に現れると推測する。やがて、サイバー犯罪集団がマカオタワーに侵入すると、彼らは予想外のデータとして、15億香港ドル相当の仮想通貨を発見する。彼らはリスクを犯してデータのコピーを取った為に、駆け付けた伍耀磊〈ウー・ヤオレイ〉(ワン・ズーイー)率いる警察と戦闘になり、高級ホテル、ウィン・マカオへの逃亡を余儀なくされる。しかし、シーモンによる監視カメラ映像のハッキングと、メンバーの巧みな変装技術によってその後の警察の追跡を躱し、姿を消した。
彼らを束ねているのは、“影”と呼ばれる伝説の暗殺者・傅隆生〈フー・ロンション〉(レオン・カーフェイ)だった。彼は孤児院にいた5人の子供達を養子として迎え入れ、彼らを凄腕の犯罪集団に育て上げたのだ。しかし、マカオでの一件では、計画外のデータコピーによる警察との鉢合わせ、胡楓〈フーフォン〉(ジュン-SEVENTEEN-)のピアスのミスで危うく正体がバレそうになり、援護したフーもまたマカオタワーで売店の店員に写真を撮られてしまった。その事に怒りを露わにしたフーは、フーフォンとシーモンを責め立て、シーモンの兄弟である熙旺〈シーワン〉(ツーシャー)に止められる。
かつて暗殺者として追われる身だったフーは、物乞いをしていた幼いシーワンに救われ、彼の居る廃園寸前の児童保護施設を救うべく、強盗によって得た金で施設に資金援助をしていたのだ。
一方、フー達を取り逃がし、なす術の無い警察は、一線を退いた追跡のエキスパート・黄徳忠〈ホワン・ダージョン〉(ジャッキー・チェン)に頼る事になる。隠居生活で多頭飼育している犬の散歩に向かうホワンを、若き女性警察官・何秋果〈ホー・チウグオ〉(チャン・ツィフォン)と、彼女に密かに想いを寄せる同僚の劉錦肖〈リウ・ジンシャオ〉(ジョウ・ジェンジェ)達が密かに尾行する。しかし、ホワンはチウグオ達の尾行を容易く見抜き、逆にコンタクトを取ってくる。
司法警察局へとやって来たホワンは、膨大な監視カメラ映像の中から、犯人グループの背丈や仕草、そして“監視カメラを確認した”という行動から、瞬く間に実行犯4人を特定する。そして、店員の撮ったブレた写真から裏で糸を引くフーの存在を察知する。
ホワンはローテクな手法を好み、フーを追跡すべく、チウグオやリウを含めた追跡チームを結成。自らの追跡のノウハウを叩き込み、街にて追跡調査を開始する。そして、追跡15日目、遂にホワン達は市場で買い物をするフーの姿を捉えるのだった。
【感想】
142分という長尺だが、テンポ良く進むストーリーと絶えず展開されるアクション、意外な展開の連続に、尺の長さを感じさせなかった。
また、共に老齢ながらも、ジャッキー・チェンもレオン・カーフェイも体を張って頑張っていた。クライマックスでの一騎打ちシーンの壮絶な戦いは必見。
一方で、ホワンとチウグオ、フーとシーモン&シーワンとの擬似親子関係、フー達の計画の真の狙いや裏切り、チームプレイによる追跡劇と逃亡劇と、非常に要素が多く、少々混乱させられる点もあるにはある。しかし、その要素の多さが作品の面白さや尺の長さを感じさせないテンポ感にも繋がっているので、一長一短といった所か。
とにかくアクションシーンの力の入れ具合が素晴らしく、ベテランも若手も、皆よく動く。近接格闘からナイフアクションにガンアクション、棒術に至るまで、多種多様なアクション演出が拝めるのも非常に贅沢。
一方で、地味になりがちな追跡捜査シーンも、メンバーのあだ名やコミカルなやり取り、フーを発見してからのバレる・バレないのハラハラさせる展開と、緩急のバランスの付け方が素晴らしく、アクションだけじゃない本作の確かな魅力を感じさせた。
クライマックスでフーを追い詰める際、チウグオの元に仲間達が集結していく様子は、『アベンジャーズ』のような安心感と盛り上がりがあった。序盤でホワンが語ったように、狩りとはチームプレーなのだと感じさせられる。
警察の捜査にAIが用いられているというのも現代的なアプローチだと思った。ローテクとハイテクを合わせた捜査でフー達を追い詰める様子には、単にAIを悪として排斥するのではなく、共存の道を模索する姿勢に好感が持て、これからの時代の刑事モノのスタンダードになっていくのだろうなと感じた。
残念なのは、犯罪集団にアイドルやイケメン若手俳優を起用し、序盤こそパルクール風のイケイケ逃亡アクションを展開していたにも拘らず、クライマックスではジャッキーの足止めをした2人以外はアッサリ捕まっていたりと、せっかくの動ける若手を最後まで活かしきれなかった点は勿体無いと感じた。彼らにまで見せ場を与えたら、流石に要素が多くなり過ぎる気もするが、そもそも本作は詰め込み過ぎなくらいの積載量なので、大差無かったとも思うのだが。
【ジャッキーだけじゃない。豪華絢爛な出演陣】
70歳を超えたジャッキー・チェンの相変わらずのアクションスターぶりを堪能出来るだけでも、鑑賞料金分の価値がある。
追跡のエキスパートとして、ローテクな手法を好み、メンバーに変なあだ名を付ける悪癖があれど、リーダーとして頼もしく、チウグオとの擬似親子関係には胸を熱くさせられる。フーが“影”として裏稼業を行なっているのと対比するように、ホワンもまたかつての自分の青臭い正義感から死なせてしまった相棒の娘であるチウグオの人生を、人知れず“影”として見守り続けてきたというのは熱い。クライマックスで若手達を相手に棒術アクションを繰り広げる姿もコミカルで往年のジャッキー・アクションらしさに溢れている。
レオン・カーフェイ演じる“影”ことフー・ロンションのラスボスとしての存在感、レオンの熱演ぶりが凄まじい。シーモン達養子を犯罪集団に育て上げながらも、その奥底には不器用ながらも確かな“親子愛”が存在しているのが、彼を単に冷酷無比な悪役に留めない魅力に繋がっている。また、凄腕のナイフ使いという設定も良い。思えば、今年日本公開された『トワイライト・ウォリアーズ/決戦!九龍城砦』(2024)でも、テレンス・ラウ演じるソンヤがナイフ使いとして大活躍していたが、香港アクション映画界ではナイフ使いがトレンドなのだろうか。
ただし、警察署への襲撃部隊が銃で武装してホワン達とガンアクションを繰り広げていたのに対して、孤児院跡地でロンションを襲う刺客達が、皆ナイフや斧という近接武器しか持っていないというのは、脚本の都合を感じた。擬似的な親子の情があろうと、本当に伝説の暗殺者を葬ろうというのなら、こちらにこそ銃で武装した部隊が必要だと思うのだが。
シーモンとシーワン、そしてミッドクレジットで判明する“3人目の兄弟”と、1人3役を演じたツーシャーの熱演も見所。特に、シーワンとシーモンは別人に見えるくらいの演じ分けを披露しており、彼の存在もまた本作において欠かせない。
双子設定かと思いきや、ミッドクレジットで三つ子だと明かされる展開は、よくある話だが面白くはある。勘の良い人ならば、過去回想シーンやシーモンのチャット相手の様子で気付けたのかもしれないが。
ヒロインであるツイグオを演じたチャン・ツィフォンは、男だらけの本作を彩る。幼さの残る顔立ちは、若く無鉄砲なチウグオの姿と重なるし、ホワンとの擬似親子関係にほっこりとさせられる。ホワンとフーの言う通り、喧嘩も強かった。
【総評】
ベテランと若手、双方による気合いの入ったアクションと、目まぐるしく展開されていくストーリーに、最後までスクリーンに釘付けにされた。
ミッドクレジットで、ホワン、フー、チウグオに懸賞金が掛けられた事で、続編を作る気満々な幕引きには少々冷めはしたが、このクオリティで“次”があるのなら、また劇場に足を運びたいと思う。
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