「二人の物語でしょう?」落下の王国 4Kデジタルリマスター LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
二人の物語でしょう?
すべての「おはなし」は「昔々、あるところに」で始まる。
・・・むかしむかし、ろすあんじぇるすというところのびょういんに、ロイというせなかをけがし、しつれんもして、いきるきぼうをうしなったすたんとまんと、オレンジのきからおちてうでをけがしたアレクサンドリアというおんなのこがいました。
ロイはじさつするためのくすりをてにいれるために、あれくさんどりあをりようしようとかんがえ、ふしぎなふくしゅうのおはなしをでっちあげました・・・・
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あ~おもしろかった。
おもしろ過ぎて13:30からの回を観終わった直後に、30分後から始まる16:15からの回をすぐに買い、ぶっ続けで二度観てしまった。
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例によってまったく事前に情報を入れず、どうやら20年近く前に公開されたもののリバイバル上映だ、ていどの認識で予約していた。
しかし、何よりキービジュアルがぶっ飛び過ぎている。
むむむ、これはいわゆる文芸大作か? 悪い方に転んだアリ・アスターやヨルゴス・ランティモス風か、あるいはホドロフスキー風までぶっ飛んでいなければ良いが・・・と半分危惧しながら臨む。
だが、最初の5分ほどのモノクロ映像に、いきなり持って行かれた。
水面から超スローモーションで立ち上がる男の球体に見える頭、鉄橋の上で機関車の側面から真横に噴出される蒸気、川に浮かぶ2人の男たちに投げられる救助用のロープの影がまず水面に写ってからフレーム・インしてくる様子、川から引き上げられる馬の頭の超ドアップ・・・
すべてが美しい。
後で知った巷の評判では、石岡瑛子の見事なコスチュームや、真っ青な空と赤っぽい砂の砂漠、バタフライ礁、世界各地の絶景・・・といった豊穣な色彩がともかく素晴らしいという声が多いが(もちろん私もまったく同感だけれども)、このモノクロームのオープニングのショットの数々こそ、ターセム監督の名刺代わりの先制パンチだ。
だってそこには、この作品の画作りにどう取り組んでいるか、どれだけエネルギーを注いでいるのかが、高い技術によってこれでもかと示されているからだ。
監督のその審美は、カラーとなったあともあらゆるショットで遺憾なく発揮されている。
(感想がとっ散らかって恐縮だが、標本箱にピンで刺された蝶の標本がバタフライ礁に変わっていく、あるいは「実は司祭は悪者でした」の顔のアップから砂漠で拘禁されている5人のシーンへトランセンドする、あの騙し絵のような視覚効果は鳥肌が立った)
そしてかわいい小さな役者が現れる。
ちょっぴり怪しい英語だが、そろそろおしゃべりになってきた5歳の女の子らしいエネルギーでイケメンのロイと接点ができる。
この2人のやり取りがまた良い。
大人と子どもの、お互いに言うことがちょっとカブったり、逆に見合ったりする会話の流れや淀みが、仰天するほど自然だ。
嗚呼、あれはどこまで台本に忠実で、どこまでアドリブなんだろう。
そして絶対に忘れられないシーンがある。そのために2回連続で観たようなものだ。
ロイのために深夜の調剤室で転落(fall)し、頭に傷を追ったアレクサンドリアに寄り添いながら、物語の続きをせがまれながらも仲間がどんどん亡くなっていく話しか語れないロイ。
「このおはなし、きらい」と泣くアレクサンドリアに、「ハッピーエンドじゃない」「これは『僕』のストーリーだ(だからどうしようと僕の勝手だ)」と憔悴しながら突き放すように絞り出すロイに向かって、
「二人のよ(Mine, too.)」
と言うシーンだ。
二人の物語のはずでしょう?
この瞬間に二人の物語は、映画館で座って2時間を目撃してきた私たちをも取り込んでしまった。
そうだよ。ロイ、お前独りの物語なんかでは、ないんだぞ。
そして同時に、冒頭の「Los Angels. Once upon a time.」を鮮烈に思い出す。
すべての「おはなし」は「昔々、あるところに」で始まるが、このおはなしは病院の時間もロイの過去もアレクサンドリアの過去も、語られた5人の復讐譚も、そしてロイの未来もアレクサンドリアの未来も、「二人の物語」の中に豊かに溶け合った挙げ句
「おしまい」
と切り上げられた。
参りました。
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