「そう聞くとなおさら観たい」佐藤忠男、映画の旅 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
そう聞くとなおさら観たい
60年にわたる映画批評家人生の中でアジア映画を広く世界に紹介し続け、日本映画大学の校長として後進の指導にもあたり、去る2022年3月にお亡くなりになった佐藤忠男さんの事蹟を振り返るドキュメンタリーです。映画大学のすぐそばにある川崎市アートセンター映像館を利用している我が家の二人は、この映画はここのスクリーンで観なくてはなりません。
僕自身は、その文章をさほど読んできた訳ではないのですが、或る時の調べ物で佐藤さんの『日本映画史』(全四巻)の一部を読んで、「ここまで詳細に調べ尽くして記録するとは何て凄い人なんだ」とその執念に腰を抜かした事がありました。そんな僕には、本作で紹介される佐藤さんの足跡、そして奥さんの佐藤久子さんの尽力などは知らない事ばかりでした。作中で紹介される佐藤さんの言葉の中で、
「自分が何を考えているかは、文章を書いてみないと分からない」
は、非常に印象に残りました。映画批評文を書き続けて来た佐藤さんが言葉と文字に寄せる思いが伝わります。
そして本作は、佐藤さんがオールタイムベストとするインド映画『魔法使いのおじいさん』を巡る旅へと繋がります。僕はそんな映画の事は全く知りませんでした。本作でも実際の場面は少し紹介される程度なのですが、こうなると是非観たくなります。ところがです。
上映後に、本作監督の寺崎みずほさんと共に登壇なさった日本映画大学学長の天願大介さんの言葉に驚かされました。
「この映画観ると、『魔法使いのおじいさん』を観たくなるでしょ。でも、きっと「何だこれ?」と思いますよ。びっくりするほど下手くそな素人映画です」
と、バッサリなのです。でも、佐藤忠男はなぜこれを強く推したのかを考える事が映画を考える事になるとの言葉には大いに頷かされました。この映画は配信もされていません。どこかで観たいなぁ。
