「アジアへ向けて大きく開け放たれた扉」佐藤忠男、映画の旅 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
アジアへ向けて大きく開け放たれた扉
鑑賞中、氏の著書を初めて手にした頃の記憶が蘇った。それは見知らぬ世界へ向けて押し開かれた扉。氏が紹介するアジアの映画は、たとえまだ制作体制の十分には整っていない国の小さな作品でも唯一無二の輝きを放っているように見えた。このドキュメンタリーは一人の映画評論家の人生を振り返りつつ、いかにして彼が評論の世界へ足を踏み入れ、その興味関心がアジアへと向かったのかを紐解いていく。派手さはないが、ほっとするような温もりが香る。孫以上に歳の離れた学生との対話で相手の言葉を受け止めて肯定する表情だったり、思考する上で「文字としてアウトプットすること」を大事にする姿勢だったり、ああ、佐藤さんってこんな方だったのかという納得や発見がある。そして後半、本作は、氏が最も愛した一本のインド映画をたどる旅へーーー。激変の一途をたどる現代社会。その中でふと立ちどまり、佐藤忠男の著書を広げ、言葉や思いに触れたくなる一作だ。
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