劇場公開日 2025年12月5日

「彼女の「世界に響き渡る死」」手に魂を込め、歩いてみれば オパーリンブルーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 彼女の「世界に響き渡る死」

2025年12月24日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

イラン出身のドキュメンタリー映画の女性監督、セピデ・ファルシがガザで何が起きているのか映像制作を志すも、ガザに入ることが出来ず、知人の紹介でガザに住むパレスチナ人、ファトマ・ハッスーナとスマホでビデオ通話をして、それを撮影することでガザの現状をフィルムにとらえようとする…

電波状況が悪い中でのビデオ通話なので、言葉は途切れるし、しばしば接続も切れてしまう
しかしファトマはいつも満面の笑顔で画面にあらわれて、“現在のガザ”を感情を抑えた言葉で伝える

まだ23歳と若い彼女はフォトジャーナリストでもあり、ガザの破壊された街並みと、その中でもたくましく生活する人々、まなざしを向ける子どもたちをとらえて、1枚の写真に切り取り、ガザの外に送信する

突然、頭上にのしかかってくるような重い爆撃音
それに続く、何かが酷く破壊される音
後半はブーン、ブーンとドローンの音がノイローゼになりそうなほど常時響く(文字通り常時、つねに、だ)

彼女はガザに住んでいることを誇りに思っていて、たとえ国外に出ることが出来たとしても、ここに戻る、私の生きていく所だと語る
明るく話しているが、爆撃で彼女の叔父は亡くなり、その妻は路上で首だけが見つかる、という凄惨な死を遂げている、にもかかわらず、だ

私だったら…パニックに陥って、恐怖と嘆きと攻撃してくるイスラエルに向けて呪詛を投げるだろう
しかし彼女は自らが当事者であるにも関わらず、抑えた言葉で事実を伝えて、ビデオ通話では外国には行ってみたい、一欠片のチョコレートは食べたいなと笑ってみせる

彼女が切り取ったガザの風景のこちら側に、彼女の目線がある
大好きなふるさとが、一方的な攻撃で破壊されていくさまを淡々と写す
そしてその中で、彼女を見つめる子どもたちの目
何かを車で運ぶ人
誰がが命を落としたであろう凄惨な血溜まりを、黙々と掃除する人
大袈裟に、声高に叫んだりはしない
事実として撮影された風景や人々の姿が、私たちにたくさんのものごとを教えてくれる

彼女の目線が切り取った写真や動画、屈託のない笑顔が、淡々と語る事柄がこの映画に残る限り、彼女の生きた証拠となり、イスラエルの暴挙の証拠ともなる
「もし死ぬのなら、世界に響き渡る死を望む」
本人が記したように、皮肉にもまさしくそうなったように…

オパーリンブルー
talismanさんのコメント
2025年12月25日

オパーリンブルーさん、コメントありがとうございます。「世界に響き渡る死を望む」、ファトムの言葉ですね。ダメです、また涙が出てきました

talisman