「1968年「プラハの春」でラジオ局員たちが見せた不屈のジャーナリスト魂…… 表向きはそれでいいけど 実は「闇」に抗いながら自らの良心に従って行動した青年の成長物語かな」プラハの春 不屈のラジオ報道 Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
1968年「プラハの春」でラジオ局員たちが見せた不屈のジャーナリスト魂…… 表向きはそれでいいけど 実は「闇」に抗いながら自らの良心に従って行動した青年の成長物語かな
この映画、まあ割りと地味な感じだし、平日の昼間だし、空いてるだろうなとオンライン予約もせずに開始15分ぐらい前に新宿武蔵野館にのこのこと出かけていってちょっとびっくり。入り口のところの席の状況の表示が残りわずかを示す三角マークになっていました。幸いにしてなんとか席は確保できましたが、久しぶりにほぼ満席のなかでの鑑賞でした。公開規模が小さいのとサービスデイだった絡みでこうなったとは思いますが、「文化都市」東京をちょっぴりだけど感じました。
さて、タイトルになっている「プラハの春」はリアルタイムでニュースに接した中では、私は年少の世代にあたると思います。小学6年生で新聞がなんとか読めるようになった頃で、気になったニュースのひとつだったことを憶えています。「ドプチェク第一書記」という固有名詞は憶えていましたが、この映画で彼がスロバキアの出身だったことを初めて知りました。あと、この映画には出てきませんでしたが、この頃の日本で最も有名なチェコ出身者としては女子体操のチャスラフスカさんがいました。彼女はひとつ前の東京五輪で金メダルを獲得し「名花」と呼ばれた名選手ですが、この「プラハの春」に際しては民主化運動を支持することを表明し、大いに注目を集めたものです。ソ連の軍事侵攻の際にはどこかに身を隠していたようですが、その年に行われたメキシコ五輪でも準備不足にもかかわらず、大活躍した記憶があります。私、実はその後の彼女がどうなったのか、まったく知らず(どこか西側の国にでも亡命したのかとも思ってました)、これを機に wiki で調べたら、以降もチェコにとどまり、家庭の問題で精神的に苦しかった時期を経験したものの、1989年のビロード革命後には新大統領のアドバイザーを務め、大統領府の仕事を辞した後にはチェコのオリンピック委員会の総裁も務めて、2016年に74歳で死去されたとのことです(合掌)。
「プラハの春」を話題にすると、私はどうしても『存在の耐えられない軽さ』に触れたくなります。チェコスロバキア出身の作家ミラン•クンデラの代表作とされる小説で、フィリップ•カウフマン監督、ダニエル•デイ=ルイス主演で映画化もされています。私はたぶん小説→映画の順だったと思うのですが、この作品には「プラハの春」に絡んで語られる場面があります。映画ではソ連の軍事侵攻を伝える古いニュース映像に新しく撮られたダニエル•デイ=ルイスの画像がはめ込まれていたような記憶があります。こちらも wiki によると、原作者のミラン•クンデラは「プラハの春」に際して改革を支持したので、国内での創作の機会を失い、著作も発禁処分を受けたとのことです。彼は1975年に大学の客員教授として招聘されたのを機にフランスに出国(亡命)します。挙げ句の果てに、1979年にはチェコスロバキア国籍を剥奪されます。1989年のビロード革命以降は何度か一時帰国していたようですが、2019年にチェコ外務省がミラン•クンデラのチェコ国籍回復を発表してクンデラ夫妻もこれを受理したようです。結局、彼は2023年94歳でパリにて死去します(合掌)。なお、彼には若い頃(1950年頃)、チェコスロバキア秘密警察に協力したのではないかという疑惑があるそうです(スパイと思われる人物を秘密警察に密告したとのこと)。本人は否定していますが、このあたり、旧東欧圏の闇みたいなものを感じます。
で、ようやくこの映画の話。実話を基に作られてはいますが、主人公として物語を引っ張るのは、恐らくは架空の人物であろうトマーシュという青年です。既に両親を亡くしていた彼には守らねばならぬ弟のパーヤがいました。彼は中央通信局で働く技術者でしたが、上司の命令により、国営ラジオ局の国際報道部で働くことになります。この上司の命令の影にあるのが、学生運動をしている弟パーヤを見逃すかわりに、自由な報道を目指して活動している報道部を監視して報告せよ、みたいなスパイ活動の強制じみたものなのです。まあ上述した「闇」というやつですね。
私はこの主人公の「トマーシュ」という名前に軽い引っかかりを覚えました。これ、上述した『存在の耐えられない軽さ』の主人公の名前と同じなんですね(性格的にはずいぶん違いますが)。まあチェコではありふれた名前で偶然の一致かもせれませんが、ちょっとミラン•クンデラ•オマージュを感じてしまいました。
で、この映画、世界史に残るような大事件を扱っていますが、テーマとしてはその大事件の顛末だけではなく、むしろ、もっと文学的で、ある青年の苦悩の物語だったように思います。国家権力の「闇」に呑み込まれそうだった青年が自分の良心に従い行動し、人として成長してゆく、私の中ではそんな物語でした。
それにしても、こういう動乱の時代に巡り合った人生って大変ですね。「プラハの春」は有名なベラ•チャスラフスカやミラン•クンデラの人生に大きな影を落としていますし、名もないトマーシュやパーヤが何千人何万人といたと思います。
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