「見るべきものがある? もう見るべきものは何もない。」ダンサー・イン・ザ・ダーク 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
見るべきものがある? もう見るべきものは何もない。
20年前、知り合いの女子たちの間で話題だったこの映画。当時はまったく興味がなかった。ミュージカルということも抵抗があった。それが、いい歳を重ねてこの映画の宣伝をみかけるとどうだ、見たい欲求が強すぎて足を運んだ。
なるほど、当時"衝撃"というワードを使う理由がこの映画のラストにはある(この頃のアメリカは、あれを目の前で見せていたのか?!という驚きも含めて)。でも、もっと理不尽かと思ってた分、物足りない気分ではあった。世の中の理不尽さ(司法の杜撰さとか)よりも感じるのは、セルマの無垢さだった。それは純真なものではあったけれど、半面、意固地であり偏狭さでもあった。だから人によっては"可哀そう"とも思うのだろうし、"イライラする"と思うのだろう。僕には、母親の愛の盲目さが痛すぎて、どう手を差し伸べたらいいか迷っているうちに、するりとその手から零れ落ちてしまった感覚で終演を迎えた気分だった。だから、あとから感想が押し寄せてくる。
当時、ミュージカルに抵抗があったが、このくらいなら今は大丈夫。むしろ、素晴らしかった。なんで、突然踊り出すかって、それはセルマの空想なんだものしょうがない。この空想の時間だけがセルマにとって幸せの時間なのだもの。むしろ、このくらいしか彼女にとって幸せはなかったのかと思うとつらい。まるで、マッチ売りの少女が、なけなしのマッチを擦って灯した僅かな時間と同じで、つらすぎた。
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