劇場公開日 2025年10月10日

「緩急見事なフランス産傑作青春映画」ホーリー・カウ コウチャンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 緩急見事なフランス産傑作青春映画

2025年11月17日
Androidアプリから投稿

グーグルのAIといつも映画について情報交換している。自分の好きな映画の傾向から、AIがこの作品は絶対に劇場鑑賞すべき、と勧めてきた。各映画サイトの点数があまり高くないから期待していなかったが、危うく、こんなに素敵な映画を見逃すところだった。完璧だった。自分が映画に求めるものが、ぎゅっと詰まった名作。自分が見てきた青春映画/ドラマというジャンルなら、映画ではなく申し訳ないが「北の国から'87初恋」に次いで、ホーリー・カウが生涯第二位になった。
シンプルな作り。一見荒々しくて、でも繊細で優しい作品。物語に不要な一切の要素は省かれ、青春ドラマとしてトトンヌの成長を表現するために必要なことは全部入っている。さらに、肝心なところは逃げずに、撮影が大変であろうシーンをじっくりと見せてくれた。ここには映画として究極の洗練があった。
前半、トトンヌが怠惰な生活を送り、対人関係も雑に振る舞う間は、映画自体も、構成なのか、映像なのか、わざと洗練を排除して粗雑な印象を受けるように作られている感じがした。しかし、最初は牛乳を盗むためだった牧場の彼女との間に、少し想い入れが芽生えてきて、自分の仲間との間に挟まれたトトンヌに人間らしい葛藤が生じてきたあたりから、映画の質もぐっと高まってきた。主人公の成長と、映画自体の構成力のカーブを合わせるとは(意図したかどうか分からないが)、物語がシンプルな分、やることはやってる監督のセンスが見事だなと感じた。
この映画は一方では省略をきらい、大変なことを真正面から丁寧に描く。一つは牛の出産とともに主人公に葛藤が生まれる大切な場面。きめ細やかにリアルな描写があった。どこまでが実際の映像で、どこからが加工されていたかは分からないが、あの撮影には沢山の苦労があっただろう。次に、妹のリードにより二人で初めてチーズ作りに成功する場面。丹念に各工程を見せつつ、兄妹の絆が深まっていることをじっくり見せる。ぼくの涙がどんどん溢れてきて、良いチーズが出来て欲しいと願いながらスクリーンを見つめた。物語をわかり易く伝えるためのエピソードの織り込み方と、人間ドラマとして面倒を厭わずにじっくりと描く場面、この対照が上手く、センスに唸らされた。物語自体はありがちなのに、監督の演出センスと俳優陣の自然体の演技が重なり、こんなに素晴らしい映画を久しぶりに観た、と爽やかな感動に包まれた。
グーグルAIは、やはりカンヌでの受賞実績と、フランス国内での興行的な成功を重視したのだろうか。この名作の劇場鑑賞を激推ししてくれたことに感謝したい。

コウチャン