「取材のロードムービー」壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記 木五倍子さんの映画レビュー(感想・評価)
取材のロードムービー
ガザの悲惨なニュースばかり見ていて、パレスチナとイスラエルといえば戦争のイメージしかありませんでしたが、この映画では、パレスチナ側でもイスラエル側でも等身大の人間が描かれています。遠い世界の出来事ではなく、日本の現実ともつながる人間の問題なのだと気づかせてくれるドキュメンタリーです。
川上泰徳監督はジャーナリストとして、「壁の外側」のパレスチナと、「壁の内側」のイスラエルの両方の現地を訪ね、粘り強く人々のインタビューを重ねます。監督はそのような取材をiPhoneで自ら撮影するという手法をとっています。ジャーナリストの取材がロードムービーとなり、一緒に取材に同行しているような臨場感があるのは、これまで感じたことがない体験でした。
ヨルダン川西岸ではイスラエル軍がパレスチナ人の住宅を破壊したり、学校を破壊したしているという現実に衝撃を受けました。川上監督はそんな悲惨な状況で、パレスチナ人の羊飼いや村人、女性たちにインタビューをします。ごく普通のパレスチナ人が自分たちのことをしっかりと話す姿は、人々の力強く、前向きで、初めて見るものでした。
イスラエル側では主要メディアはパレスチナ人の惨状を伝えないために、国民は自分たちの軍の「戦争犯罪」を知らないという実態が明らかになります。その中で、監督は兵役を拒否する18歳の3人の若者と出会い、彼らの肉声や素顔を追います。日本ではニュースでほとんど紹介されることがないテーマで、日本の若者たちにもぜひ、見て欲しい貴重な作品だと思いました。
イスラエルのガザ攻撃のニュースを2年近く見てきたのに、この映画を見て、パレスチナとイスラエルについて知らないことばかりだと感じました。重いテーマですが、終わり方は決して絶望的ではなく、監督が現場を歩いて見いだした希望が示されていることに感銘を受けました。