クラッシュ(2005)のレビュー・感想・評価
全17件を表示
描いているのは人種差別だけじゃない。
◯作品全体
いろいろな人種の登場人物が現れ、それぞれの間に起きる「クラッシュ」を点描しているから「あぁ、この作品は人種差別を題材にした作品なんだな」と決めつけて作品を見ていたけれど、個人的には人種差別云々よりも、人と人の「わかりあえなさ」と「分かち合いたい感情」の揺さぶりが心に響く作品だった。
登場人物の弱さの描き方が巧い。親の介護や貧困、言語が通じないことや人種の偏見…どれも生活の中にあるありきたりな弱さだが、特別なものではないからこそ、その弱さに説得力がある。そしてその弱さが「社会からの疎外感」とつながっているところに「人種差別の作品」と簡単に言えない奥行きがある。
父の介護で眠れない白人警官・ライアンは職場でも差別主義者だと揶揄されている人物だが、父の介護を一人で行い、社会の手助けもうまく受けられない疎外感を持つ。白人の警察官というコミュニティにいながら、自分の生活の根幹部分の辛さはだれともわかりあえていないのだ。商店を営むファハドも言葉を交わせるのは家族だけで、店舗を経営するうえでわかりあえる人物はいない。
他の登場人物もそうだが、わかりあえず、わかり合おうとせずに自分の弱さを「クラッシュ」するときは誰も幸せになっていない。前半はそんな「クラッシュ」ばかりなのだが、相手をわかろうと、分かち合おうとする「クラッシュ」では少し風向きが変わってくる。
単に「ヒスパニック」「白人」「黒人」というようなレッテルではなく、その奥にある個々人の人生に触れれば分かち合えるという可能性を示すようで、それは人種だけでなく、パートナー同士の軋轢にも同様だと物語が語っていた。
一番心に刺さったのはテレビディレクターのキャメロン。職場でも波風を立てず、妻がライアンからのセクハラを受けていても冷静に対処していたように感じた。でもそれはやり過ごしているだけで、誰ともわかり合おうとせず、拒絶しているのと同じだ。自分の本心すらもわかり合おうとしないキャメロンの姿には自分自身と似ている部分もあって、終盤でキャメロンが警察官や妻に自分の気持ちをまっすぐぶつける姿にグッときた。
伝えたいことは人種差別だけではなくて、「顔しか見たことがない、なんとなくいけ好かない隣人」や「電車で隣りに座った横柄そうな人」とか、上っ面しか知らない人とわかり合おうとすること。それが人と人同士の幸せな「クラッシュ」につながるんだ…そんなメッセージを本作からは受け取った。
◯カメラワークとか
・玉ボケの演出。ファーストカットが車のライトの玉ボケから始まって、ラストはその玉ボケにピントが合って個々の車や街の灯りを見せる。
人種とか、そういう上っ面だけみたら玉ボケのように同じものとしてしか認識できないけれど、中身を見ていけば一人ひとり違う色や形、速度をしている…そういう演出として受け取った。
◯その他
・でも黒人刑事のグラハムはかわいそうだった。弟を探さなかったから死んだんだってのはグラハム自身が図星だと思ったとしても、母への気遣いさえ無下にされてしまっている。本作では唯一の報われない「分かち合う」だった気がする。自身の保身が代償として扱われているのだとしたら、かなり厳しいジャッジをする脚本だな…なんて思ってしまった。
・若手警官・トムもかわいそうだった。自分の考えをぶつけたのに、それでも勘違いして撃ってしまう役回り。「分かち合える」物を出そうとしているのに…それを見ることさえできれば行く末は全く違ったのに…そういう「あと僅か」の演出が凄かったな。
・階段から落ちて家政婦に助けられるジーンはちょっと腹立つ登場人物だったなあ。これを機に変わっていくのだろうけれど、一方的に「親友よ」とか言ってるあたり、今までの態度とかは帳消しみたいなスタンスなんだろうなコイツ…みたいに思っちゃったなあ。
キャスト、物語共に文句なし
星3.8ぐらいの作品かな
久しぶりに観直したんだけど良かった
メルティングポットであるアメリカで暮らす様々な人々と
それらの人々の持つ差別、偏見、憎悪が色んな出来事を起こしていく
それぞれのエピソードも、考えてしまうような救いのなさがあり
とても深い情感を巻き起こす
現代アメリカを描いているように思えるなかなかの良作です
重いテーマ
人種差別を扱ったかなり重いテーマの物語で、2006年アカデミー賞作品賞を受賞した映画。アカデミー賞受賞作品は人種差別を扱った作品が多い気がする。
21世紀になっても、まだまだアメリカでは人種差別が多いんだなと痛感した。たとえ有名人でも高い地位の人でも、一旦何か少しでも隙があれば、陰湿な人種差別、イジメが起こってしまう。
同じ「クラッシュ」でも、クローネンバーグの「クラッシュ」もお勧めです(一部の人には)。間違って先にそっちを見てしまった(笑)。
二度見前提?
オスカー取った以外は予備知識ゼロでいま観終わりました。
いくつかのエピソードが同時進行したり交錯したり時間が戻ったりして、どれとどれが繋がっているのか、なぜこんなことが起きるのか、あの人とこの人関係あるんだっけとか???が山ほどあって、よほど勘がいいか、メモ取りながらじゃないとわからないことだらけです。
一貫してるのは人種差別らしいので主題はそこなんでしょうが、最後に全部がつながるわけでもなく支離滅裂のそしりは免れません。
なのに、脚本がいいのか、シーンのつなぎ方がいいのか、次はどうなるんだろうか、気になってあっという間に終わってしまって、こんなにわからないのにとても面白い魔法みたいな映画です。
では、解説読みに言ってきます。
解説や感想読んできました。やはり人種差別らしいです。話が繋がらないことはあまり気にしない人が多いようです。でも筋がわからんという人もかなりいるので、裏返せば私の疑問も正しようです。私は面白かったけど、ストレス溜まる人も多いでしょうね。
最後に、あのアラブ人の店壊したの誰だったんでしょう?これだけは全然わからない。
行き詰まりのアメリカ社会の断層
人種差別と銃社会の問題を抱えたロサンゼルスを舞台に、様々な階層の人々の意識と行動を見つめ、アメリカ社会の歪みをクローズアップした意欲作。最後まで興味深く観たが、最も差別意識が低い警察官が勘違いとは言え黒人少年を射殺することや、黒人差別排除の為に失職した父に同情して、取り調べ中の黒人の婦人にセクハラする事と、偶然にも交通事故に遭ったその婦人を命からがら救助する脚本の創作が、あざとい。それも事実に基づいた現実の再現である作者の意気込みは充分理解するが、群像劇のドラマとしてよりドキュメンタリーで表現したほうが説得力を持つのではないか。登場人物のほとんどが神経症的表情で救いがなく、未来への希望を持てない暗いイメージが固定化されている。俳優の演技を楽しみ味わう題材ではない。
これは自国のアメリカ人の為に作られた問題提起のメッセージ映画であり、日本に安住するものには限界がある。
差別と偏見と正義と勇気
人種差別思想の警官の憂さ晴らしと、それでも目の前で事故があれば自らを顧みず助けに行く勇気
新米刑事の熱い正義漢は、黒人への恐怖や偏見からか、自らを守るために殺人に手を染めてしまうほどに堕ちていく。
何が正義で何が悪か、人種の壁とは、差別とは、一人一人の人生とそこに至るまでの環境とが描かれ、決して誰も責められないのではと思うほどに悲しい現実が突きつけられる。
ただ一つこの映画の中で描きたかったのは、誰もが守りたいものを持ち、そのために強くなれる心の有り様なのではないだろうか
差別と偏見
この映画の面白い所は
差別、偏見ダメ!
っていうのをストレートに伝えてない所。
逆にリベラル的な考えを真っ向から否定します
差別に対して、
単純に良くないと習って覚えた弱い正義感
は破滅を呼ぶんだなって思いました。
新米警察官とセクハラ人種差別警察官の対比にそれがよく出てますね笑
最初はセクハラ野郎最悪だなぁって思うんですけど後々彼には介護をする父がいて父は黒人に対して分け隔てなく給料を与えていたのに黒人差別撤廃の政府の動きによって妻にも仕事にも見放されてしまう、そんな現実に不満や怒りにいつもぶつかっていた人なんですよね
それに対して新米は小さい時から差別良くないという教育からそーいったぶつかり合いが無かった
だから弱い正義感で車泥棒逃がしちゃって警察官の仕事を真っ当にできなかったり黒人のポケットに手をやる動作で勘違いしてしまって銃殺する間違いをうんでしまったんだなと
人との衝突を避けて和を大切にする日本人は
見た方がいいのかも。
物事を一方方向からしかみるのではなく
多面的に見れる人間になりたいなぁ
そーゆーふうになるのもやっぱり経験かなあと思いました
個人的に天使の話良かった。空砲でほんと良かった😭
エンドレス
人種差別をテーマにした映画。このころは色々な物語が少しずつ重なっているっていうのは新鮮だったかもしれないけど、今思うとそうでもない。最近そういうの多いし。
黒人の差別だけでもアジア人とかだけでもない。どんな人種も差別される。被害者だけっていうのが存在しなかった。一番気になったのは、あの若い警察官。パートナーの先輩が黒人差別をしたからパートナーを変えて欲しいって言った。自分は差別なんてしない。そしてあの差別された黒人を守ろう。これでいいんだ。って思ってただろうけど、実際彼は黒人を知らない。近くにいるとやっぱり不安感や警戒心がある。だから最後はあの先輩と同じになった。というよりむしろそれ以上。実態を知らないとダメ。やっぱり自分は差別なんかしないと思っていても、どこかでそういう警戒心が生まれているのは事実。そして差別はなくならない。
結構考えさせられる映画だった。いい映画。
サードパーソン見てからこっち見るとちょっと落ちると思うけど。
人々が悔い改めていく群像劇。
全体的に印象良くない感じで現れた登場人物たちが順々に悔い改めていく群像劇。前半にものすごく胸糞悪いシーンがあってとりあえず「ウェイワード・パインズに帰れ!」って怒鳴ろうと思ったけど、最後はすごい泣いた。
鍵の修理屋を営んでいるヒスパニック系のお父さんが、引っ越す前に住んでいた家の近所で鳴り響いていた銃声が怖くて今もよく眠れない娘に、透明なマントをかけてあげる。そのマントはお父さんが自分のお母さんからもらったもので、銃弾をも通さない無敵のマントと言う。自分はもう大丈夫だから、と言い聞かせて娘も安心するんだけど、ある日、お父さんが恨みを買ってある人に銃を突きつけられてしまう。それを見た娘は「もうパパにはマントがないの!」と叫んで抱きついたところに銃声が轟いて・・・
もうね、このシーンがあるだけでこの映画の価値はあった、と思った。登場人物たちの日々が少しずつ交錯して、歯車が噛み合う中でそれぞれが何かを感じていく、というストーリーはさほど大きな盛り上がりがあるものではないけど。でもこのシーンがあったから超いい映画。素晴らしい映画。
「サンドラ・バロックだけが最後までクソだったね」by夫。おっしゃる通りです。
人種差別を描いた群像劇
人種差別を骨太に描きつつもドラマティックで飽きさせない内容。
一方的ではなく色々な角度から描かれているところが◎
例えば差別の原因も、単に白人万歳!な選民思想による場合もあれば、
黒人優遇政策によって、実際に損をした白人がそれを恨んでいる場合もある。
そもそも差別とは何か。
例えば普段は白人だけのコミュニティの中に、
珍しく粗末な服の黒人が1人紛れてきたとき、
その人物を警戒するのは許されないのだろうか。
そういう、簡単には割り切れない話が、
群像劇という形で巧みに描かれている社会派映画で、
そして何より感動のヒューマンドラマでもある。傑作。
暗くていい
前に見た時はそうでもなかったのだが、今回改めて見たら登場人物がみな辛酸をなめていて、いい感じで暗かった。また暗い映画が見たい気分の時に見返したい。特に正義に燃える若い警官が殺人を犯してそれを隠ぺいするのがよかった。
それにしても気が小さいのか、変に興奮しなければその場で小さく収まることが多かった。興奮するとろくなことがない見本のようであった。
カリカリしなさんな
やっぱ、人間カリカリしてちゃダメだよな。
色んなパターンの心の衝突を群像劇の形でぶつけまくらせていて、結果ハッピーになった人も居れば、アンハッピーになった人も居る、そんな映画。ただ、結果はどうあれそれぞれ何かしら得ていて、それを次の事に繋げたいなと、一歩進んだ状態で終わりを迎える。
難しい、難しい話だよ、ほんと。
人間ただでさえ完全には理解し合えないのに、社会の構造的な問題がより一層その事を深みにはまらせている。
特にアメリカにおいては黒人、プエルトリコ人、メキシコ人、中国人、ペルシャ人、その他大勢の白人が隣同士なんて事が普通だろう。
目で見て判断できる、区別できるという事は、簡単に人をこうだと決めつける意識を同時に与えること。
ちっちゃい頃からああ言った人達はこうだとカテゴライズされて来て、本人はそう思っていなくても、良い悪いではなく深層心理には深く刻み込まれた意識がふっと沸いて出てくるのはそんなに難しい事ではない。
まぁそれを表に出すのか出さないって事で衝突するのかしないのかって事だか、この映画の登場人物達はみんな事あるごとにその意識を表に出してくる。ほんとクズ人間ばかりだなって色んな場面で思う。
映画なんである程度演出と思いたいが、あまりにも自然にその意識を出して来るので、アメリカってこうなの?住みにくいなぁ、なんて思ったり。
「人間は触れ合いたい、心をぶつけ合いたい」
それにはどうしても認識の違い、理解の違いでの衝突は避けられない。それはストレスだし、みんなやっぱりそのストレスからは逃げ出したい。
一歩下がって冷静に考えればビックリする程進んだ位置に辿り着けるのに、当事者にはなかなか難しい事だよほんと。
認識の違い、理解の違いを簡単に埋められるスポンジのような人になれればなぁ。
だってあの女の子はホント天使のような人物じゃない。
無知の知
この作品はネットの評価や人伝で「感動する!」と聞いていたけれど、そうじゃなかった。様々な人種の人々の衝突(クラッシュ)によって紡がれる、線と線が絡み合う物語。群像劇で特定の主人公がいないからこそハッピーエンドもあれば後味の悪い結末もありました。
特に印象に残ったのが差別主義の先輩警官に嫌悪感を抱く若手警官のお話。差別はいけないという意識を持ちながらも、今まで衝突したことがなかったが故に彼は本質的に差別対象となる人々の事を理解できていなかった。つまり、彼の考えは「黒人は○○や××な理由で差別されるけど差別はいけないから俺はそんなことしない!」といった具合。本当に黒人の人々が○○や××なのかを知らないのにそうだと決めつけた上で「それでも俺は差別なんかしない!」といった自己満足のようなものだったのです。その考え方が、差別対象者に対する無知が、黒人青年を誤って射殺してしまうあの事件に繋がってしまう。様々な人々が差別をしていたけど、1番恐ろしい差別者は彼だったのかもしれません。
透明マント
多種多様な人種が入り乱れるアメリカ・ロサンゼルスに住む人々の生活・生きざまを映す群像劇。
前半、来る人来る人がヘイトを撒き散らして、他人を傷つける様子が続く。
中盤、一つの交通事故をターニングポイントとして、少しずつあたり方が変わっていく。
透明マントのエピソードには思わず涙が出た。
EDのStereophonicsの曲も、本編の味が出ていて好き。
人生はクラッシュ
人は皆悩みを持っている。いじめ、差別、コンプレックスは様々な理由から生まれる。金持ちも貧乏人も、白人も黒人も、みんな何かを抱えて生きている。たから、意見がぶつかったり、理不尽なことは起きるのは避けられない。億万長者だって想像もつかない悩みがあるはずだ、きっと。生きている限りいろいろな衝突がある。その中で自分を再確認し夢や目標に向かって努力する。努力しないで文句や僻みを言っているだけでは何も変わらない。そして相手の気持も理解できれば素晴らしい。
ロサンゼルスで人種差別の問題から起きた様々なストーリーが繋がって最後にはじんわり切ない気持ちになる。娘が5歳になったら妖精からもらった透明マントを譲るストーリーが素敵だった。
全17件を表示