「読解力は求められるけれど、普遍的な話」ジュリーは沈黙したままで Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
読解力は求められるけれど、普遍的な話
テニス・コーチのジェレミーとその指導を受ける15歳の少女ジュリーの関係を描くベルギー作品。
ジェレミーの教え子のアリーヌが命を絶ったことから指導停止になるが、ジェレミーと最も関係の近かったジュリーはヒアリングにおいて沈黙を続ける。
説明は最小限で、状況から自ら読み取らなくてはならない作りになっているため、あれこれ全て説明されないと理解できない人には不向きな作品だろう。
例えば、学校から帰ってきた自分の子どもの体操服がボロボロになっていたり、教科書に落書きで埋め尽くされていたり、運動靴がなくなっていたりしたときに、子どもに「どうしたの?」と尋ねても「別に、何でもない」という返事が返ってくるかも知れない。
親としては状況証拠から事態を推測できるかも知れないが、同時に、子ども自身からすると自ら事態をより悪化させないための防御策として口を閉ざしていることも理解できるはずだ。
何もなかったはずがない。それでも、古いアルバムをめくれば、それまでの自分の人生のほぼ全てをテニスに捧げてきたことが分かるジュリー。自分が上達する過程でコーチの指導に従ってきたからだという思いも強いに違いない。夜、自宅の部屋で勉強していても頻繁に鳴るメッセージの着信音は、誰からとは画面に出てこなくても、想像に難くない。会っている時だけではなく常に精神的支配下に置かれている状態。勉強やスポーツに打ち込んで忘れようとしても、ふとした瞬間にフラッシュバックしてくる…… これらはすべて観客自身が読み取らなくてはならない情報だ。
そして、ジュリーが最後に向かった場所は、どこかという説明は一切ないが、刑事さんや弁護士さんが待っている場所。
ようやく呪縛から解放されたのかも知れない。
ベルギーだけの話でもテニス選手だけの話でもない、普遍的な話だ。
「そんなに嫌なら逃げればいい」と簡単に言う人も少なくないが、そんな単純な話ではないことは既によく知られている。
いつどこで自分が被害者になったり、加害者になったりするのか分からないという事実に自覚的であることが求められていることを再認識させてくれる作品だ。