「大衆人気と孤高の幸運な両立」スプリングスティーン 孤独のハイウェイ KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
大衆人気と孤高の幸運な両立
スプリングスティーンは、ビートルズやディランのような生まれながらの天才というより、「希望のない工場街からバイクに乗って抜け出す」という大衆向けロックの物語を紡いできた人。
無数のフォロワーを生み出したように圧倒的に感染力が高く、それが少し野暮ったいイメージにもつながっている。
この映画はヒットメーカーとして大成功したスプリングスティーンが、人生の曲がり角に立った時期を描く。原点に戻るように故郷の街で家を借り、ギターとハーモニカ、テープレコーダーだけで曲作りを開始。
ネタ探しのようにTVをザッピングするうち、少年による殺人事件の再現ドラマに目を止める。幼い頃の父の暴力、その父を殺したいという衝動などの記憶が蘇り、自分の暗部に向き合う曲を生み出すのだ。
実在する殺人事件と、スプリングスティーンと父の間に起きたわだかまりが結びつき、ちょっとした心理サスペンスのような緊張感がある。
同時にこれは、「宅録」のようなテープをそのまま発表したいという音楽家とレコード会社のビジネスをめぐる対立のドラマでもある。
この時期に偶然生まれた「ボーン・イン・ザ・USA」が超キャッチーな傑作になってしまい、「なぜこれを出さないのか」と迫られるのだから、ぜいたくな悩みだ。
故郷の小さいライブハウスに出演し、バーで働くシングルマザーと恋に落ち、庶民的な姿も描かれるのだが、結局は創作に没頭して彼女を幸せにできない。その奥には、父親と同じく人を愛せず、精神を病む自分への恐怖がある。
ごく個人的な悩みであっても、スプリングスティーンが歌えば国民的ヒットになってしまう。その裏側には罪悪感、恐怖といった奥深い物語がある。これらが同居した稀有なスターなのだ。
この映画自体、人間臭い苦悩、精神の闇、そして才能が爆発する瞬間をテンポよく見せてくれ、スプリングスティーンの映画として理想的なバランスだったのではないか。
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