「おそらく、あのアルバムの真意に近づけるのは父親だけなんだと思った」スプリングスティーン 孤独のハイウェイ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
おそらく、あのアルバムの真意に近づけるのは父親だけなんだと思った
2025.11.19 字幕 イオンシネマ久御山
2025年のアメリカ映画(120分、G)
原作はウォーレン・ゼインズの著書『Deliver Me from Nowhere』
若きロックスター・ブルース・スプリングスティーンの「ネブラスカ」制作にまつわる物語を紡いだ伝記映画
監督&脚本はスコット・クーパー
原題の『Deliver Me from Nowhere』は、「居場所のない俺を救い出してくれ」という感じの意味
物語は、1957年のある日、酒場に入り浸っている父・ダグラス(スティーヴン・グレアム)を迎えにいく少年ブルース(マシュー・ペリカーノ、成人期:ジェレミー・アレン・ホワイト)が描かれて始まる
ブルースの母アデル(ギャビー・ホフマン)は、暴力的な夫に嫌気を差し、その都度夫婦喧嘩に発展していた
ブルースは怯えるように暮らしながらも、父のことを見捨てることはできなかった
それから24年後の1981年、ブルースはリバープントコロシアムにてコンサートを行い、ロックスターとしての知名度は日に日に増していた
マネージャーのジョン・ランダウ(ジェレミー・ストロング)は彼に休暇を与えたいと思っていたが、レコード会社の重役アル・テラー(デビッド・クロムホルツ)は「勢いは大事だ」と譲らなかった
その後、ブルースは地元の郊外に家を借りて、そこで新作の準備に取り掛かることになった
彼は友人でレコーディングエンジニアのマイク(ポール・ウォーター・ハウザー)の手を借りて機材を持ち込み、寝室をスタジオへと変えていく
そして、楽曲制作に取り組むことになったのだが、なかなか前には進めなかった
彼は愛読書のフラナリー・オコナーの作品集に目を通しながら、感性を磨き上げていく
そんな折、地元のライブハウスにて「Cats on a Smooth Surface」のライブにゲスト出演したブルースは、ライブ後にかつてのクラスメイトのジョーイ(ジェフ・アドラー)と再会を果たす
そして彼は、妹のフェイ(オデッサ・ヤング)を紹介し、彼女はダメ元でブルースに連絡先を渡すことになったのである
映画は、新作制作の過程を描き、特に「ネルラスカ」がどのように製作されたかを描いていく
そんな中で、ブルースは自分の過去にふれ、自身と父親との関係に心を蝕まれてしまう
「ネブラスカ」はチャールズ・スタークウェザーという男が起こした殺人事件を題材にした映画「Badlands(地獄の逃避行)」から着想を得た作品で、主に犯罪者目線の苦悩を歌ったものだった
古い音響機材を使用して録音された「ネブラスカ」は特別な楽曲として製作されることになり、一切の妥協を許さないものだった
ミキシングエンジニアのマット(ハリソン・スローン・ギルバートソン)たちが苦戦する中、映画のタイトルに着想を得た「U.S.A.に生まれて」はバンド演奏によって化けていく
だが、「ネブラスカ」だけは思うように行かず、最終的には「カセットをレコードにそのまま移し替える」という作業へと行き着いてしまうのである
ブルースのことをかなり知っている人向けの内容で、音楽の製作現場などに精通しているとアガると思う
だが、知らなくても「両親が与えた影響に悩む子どもの話」と見ることができるし、その印象の方が強い作品でもあるだろう
なので、音楽映画と言うよりはドラマ映画の要素の方が多いように思えた
個人的には世代がズレるのであまり知らなかったものの、映画の内容に置いていかれると言うことはなかった
劇中ではテレンス・マリックの「Badlands」がかなり強烈な引用をされていて、「The Night of the Hunter」と併せて、楽曲制作に多大な影響を与えていた
罪悪感を抱えた人々の心情を歌ったものであり、それはシングル化してラジオで流すと言うタイプの作品でもなかった
楽曲のタイトルは、当初は「スタークウェザー」としたものを「ネブラスカ」に変えている
これは事件が起きた場所(州)を意味する言葉だが、ブルースはスタークウェザー目線の楽曲を「He」から「I」に変えている
これは、この歌に登場するのが「自分である」と言う意思表示となっていて、さらに多くの人に同質のものがあると感じていたからだろう
あえて一人称にすることで自身の内面が掘り起こされることになり、それが彼自身を苦しめることになっていく
だが、周囲のサポートの末にアルバムは完成し、ブルースの意図を汲んだリリースが行われる
そして、そのアルバムは全米で3位と言う記録を叩き出し、ブルースの人気を不動のものに変えていったのである
いずれにせよ、ある程度知っていないとダメだと思うものの、そこまで専門的な知識は要らないように感じた
それ以前に映画がかなり鬱屈として暗い話になっていて、映画的な面白さを感じられるかどうかの方が気になってしまう
ストーリーは地味だし、何かしらが起こると言うこともないので、物語に興味を持つと言うのは難しく思える
それでも、創作者が創作物にどのような想いを思って、何を削っていくのかがわかると思うので、その点は重厚なドラマとして仕上がっている
ブルースがなぜスタークウェザーの事件に興味を持ち、それを楽曲に落とし込んで自分を重ねて疲弊していったのか、と言うのはよくわかると思うので、この映画を見終えた後にアルバム「ネブラスカ」を聴くと印象が変わるように思える
そう言った意味において、本作は優れた音楽映画として完成されているように思えた
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