「作品トーンがシフトする後半から綻びが見える」トリツカレ男 フレンチクローラーさんの映画レビュー(感想・評価)
作品トーンがシフトする後半から綻びが見える
何かに没頭すると周囲が見えなくなる「トリツカレ男」ジュゼッペが、風船売りの移民女性ペチカに恋をする。ネズミ語会話、オペラ、昆虫採集といったこれまでに身につけた奇妙な特技を駆使し、相棒のネズミ・シエロとともに彼女を陰ながら支えようとする――
本作の魅力の一つとして、ジュゼッペの持つ多彩なスキルがあります。周囲からは熱しやすく冷めやすい変人として扱われる彼ですが、そのスキルは器用貧乏の域に留まりません。15カ国語を操り、探偵になりきれば数々の事件を解決し、三段跳びでは世界記録の実力すら持っている、そんな規格外の天才として描写されます。「ねずみに頼んでスパイ活動をしてもらう」、「レア昆虫の採集でペチカの借金がチャラになる」といった荒唐無稽な展開も、作品が軽快なテンポを保っている間は楽しいものです。
問題は、中盤以降に病気や死別といった重い要素が立ち上がり、物語のトーンがシリアスに転じてからです。トーンが変化した後も荒唐無稽なリアリティラインを維持してしまうため、物語内部の因果に脆さが見えてしまいます。例えば、サナトリウムに2年間入院しているペチカの母の咳が、偽医者として潜り込んだジュゼッペによる治療――サングラスと腹式呼吸――であっさり軽快する、などです。作品世界の虚構性と現実的な苦しみの扱いが噛み合っていないのです。
序盤の「トリツカレモードで職場に迷惑をかけるジュゼッペ」の描写も、軽く流すには問題の程度が重く、人物設定の根幹に接近した結果ノイズになっています。当然生まれる「ペチカに対する恋もいつか冷めるのでは?」という疑問に作中で答えを出せておらず、観客の好意的解釈に甘えています。
鼠のシエロが準主役を張るユニークさや、ひたむきな愛が報われる物語としてのポジティブさはあるので、そこを評価できるか否かが評価の分かれ目かもしれません。
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