ティエンポス 私たちの時空のレビュー・感想・評価
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デロリアンだ!
物語はゆったりとしたテンポで進行する。
カット割りも編集も静かで、決して派手な演出はない。
しかし、その緩やかな流れの中にこそ、
この作品の真価がある。
登場人物ひとりひとりの繊細な感情を丁寧にすくい上げ、
積み重ねていく演出、観る者の心に静かに染み入ってくる。
物語が進むごとに、感情のつながりが自然に浮かび上がっていく。
本作がユニークなのは、
「感情の物理」と「宇宙の物理」を並列に描き出す構成にある。
科学と人間の営み、一見相反するようでいて、
実は地続きなのだという視点が、語り口として巧みに織り込まれている。
この構造が、物語に哲学的な深みと静かな熱をもたらしている。
そして「タキオン」
思わず反応してしまうこのキーワード。
ジョン・カーペンター作品や『スタートレック』などでお馴染みの、
実体を持たない仮想粒子(詳しくは知らない)が、
ここでは時間移動の重要アイテムとして登場する。
言葉や概念としての“時間を越える手段”が、
想像力を刺激する。
さりげなく配置された「コンビニ前のデロリアン」、
粋なアクセントとして効いている。
オマージュに走りすぎず、
世界観の中に自然と溶け込んでいるのが好印象だ。
物語の中心にいるノラとエクトルのすれ違いが、
女と男の関係の普遍的な問題にまで広がるかと思いきや、
そこからさらに個人の夢や過去と未来の選択へと展開していく。
単なるラブストーリーでも、哲学的SFでもなく、
「ロケットマン」と「ラブ」に集約させる、
バランス感覚に優れた秀作となっている。
派手さはない。
だが、脚本・演出・演技・テーマの一貫性、
そしてSF的ギミックまでが見事に調和し、
「時間」と〈女と男〉いう普遍的なテーマを、
静かに力強く描ききった作品である。
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