「学んできた歴史も誰かの恣意的な解釈だとしたら、本作を否定する意味もなくなってしまう」新解釈・幕末伝 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
学んできた歴史も誰かの恣意的な解釈だとしたら、本作を否定する意味もなくなってしまう
2025.12.19 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(118分、G)
新しい解釈で幕末の激動を描いたコメディ映画
監督&脚本は福田雄一
物語は、江戸時代末期にて、黒船来航に揺れる日本が描かれて始まる
下田にて、吉田松陰(高橋克実)の指示によっていかだを作っていた林小五郎(山田孝之)の元に、坂本龍馬(ムロツヨシ)が興味本位で近づいてきた
龍馬は小五郎が黒船への密航を企んでいると看過し、一緒に乗せて欲しいと言い出す
そこに松蔭がやってきてOKを出し、さらに西郷隆盛(佐藤二朗)までも加わることになった
4人は何とかいかだを作るものの、なかなかうまくはいかなかったのである
映画は、この冒頭からして、歴史学者の小石川(市村正親)の解釈が入っている内容として紹介され、歴史に埋もれつつある坂本龍馬の人物像に迫るというテイストで語られていく
その後、江戸におけるコンセプト茶屋での密会、寺田屋騒動、薩摩への新婚旅行などが描かれ、船中八策からの大政奉還までの裏側を紐解いていく流れになっていた
それぞれに龍馬がいっちょかみしているという内容になっているのだが、人物描写に関しては「すべて新解釈」というスタンスになっていて、本当かどうかを考えるのは「観客次第」という結び方になっていた
この映画の構造を考えると、これまでに語られてきた歴史というものがどうして受け継がれないのかということが見えてくる内容で、その時代を知らない人が現在軸の価値観によって当時を想起するということが、新たな解釈を生んでいくことがわかる
これまでの歴史教育においても、そこで学んできたものは「解釈」のようなものであり、これはその当時を生きてきた人にとっても、情報を発進する者や媒体などの「解釈」の影響下にあることを示唆している
映画は、そこまで難しいことを考える内容ではないのだが、実際に起こったこと、伝聞に次ぐ伝聞の先にあるものを考えていくと、このような映画が作られてしまう意味もわかってしまうと思う
本作は、歴史の教科書から消えゆく坂本龍馬というものを再構築するという意味合いがあり、新解釈を用いつつも、これまでに培われたイメージというものを否定はしていない
彼が歴史の中でどのように動いたかは実際にはわからないのだが、結果を見ればどのようなことに関わったのかは想像することができる
現在進行形の問題であっても、実際に行われた内容というものは秘匿であり、その公式発表に解釈が加えられて報道されていく
ある種の印象操作の繰り返しとしての歴史の積み上げがあって、それは様々なタイミングで否定されつつあるのだろう
映画内でも、龍馬が行っていることは「相手の中にある本心を引き出す」ということを行っていて、彼の場合は自分をよく見せよとは思っていない
だが、実際には自分をよく見せるための印象操作というものは行われるもので、その種代謝が誰なのかというところは大きな問題なのだろう
それゆえに、この映画は「どうしてこのような新解釈を用いて、既成的な印象を再構築しようとする必要があるのか」というメタ的なことを考える機会になるのかな、と思った
とは言っても、それを真面目に考えるタイプの映画ではなく、いつものノリに耐えられるかのチキンレースであるように思う
全てのシーンで無断に思えるアドリブがあって、かなり薄味の120分になっている
真面目にシーン展開をすれば、おそらく30分でまとまってしまう内容なので、それを120分に薄めたものを楽しめるかどうかだろう
個人的には、ファンの人でもついていくの無理じゃね?と思うくらいにくどいと思うので、おそらくは爆死案件になってしまうと思う
幕末の英雄のイメージを壊されるとう人もいるだろうが、そのイメージすらも「ある人物の解釈」を踏襲しているとも言えるので、その地頭をシェイクする意味はあるのかもしれない
それでも、やはり無駄に思えるシーンは枚挙に暇がない感じなので、もう少し何とかならなかったのかな、と思った
いずれにせよ、映画としての完成度というのは低くならざるを得なくて、このコンセプトを楽しめるかどうかだろう
坂本龍馬を歴史の偉人として、カッコ良い人物だったと広めたい人がいれば、福山雅治に演じさせて硬派な物語を作ることも可能だと思う
このあたりの「どのような印象を与えたいか」というところに一石を投じているのだが、その意図が伝わることはまずない
そう言った意味において、表面的な部分を流してしまうだけで終わってしまうと思うのだが、これも現在進行形のエンタメの形なのかもしれない
憂慮すべきか、自由だと思うかはそれぞれの価値観によると思うが、こういう映画が作られるということを考えると平和なんだなあ、と思ってしまった
時代によっては、歴史の転換を目論む人のプロパガンダにもなり得る素材なので、そういった悪用のある世の中でないことが幸福を担保していると言えるのかもしれません
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