「演劇を通じて浮かび上がる家族の痛みと再生の道」カーテンコールの灯 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
演劇を通じて浮かび上がる家族の痛みと再生の道
じっくり味わいの沁みる良質なヒューマンドラマである。あらかじめ言っておくと、キャストは無名だし、題材も派手なものとは言い難い。それに序盤は、トラブルメーカーの娘を巡って両親が頭を悩ませる場面から始まり、事情を知らない我々からすると多少の”とっつきにくさ”もほとばしる。だが、メインの父親が地域劇団に足を踏み入れていざ「ロミオとジュリエット」の世界にのめり込み始めると、途端に何か言いようのない魅力の実が育ちはじめる。これまで演劇に縁もゆかりもなかった彼が物語に触れ、輪の中で役柄を見つけ、演技へ情熱を捧げることで、いつしか彼ら3人家族がひたすら辿ってきた大きな悲しみの旅路が浮き彫りになっていく。この脚本と構成の妙。溢れ出る感情。キャストが無名だからこそ先入観なく内面に溶け込むことができる尊さ。幕が上がる。演劇モノ特有の高揚感が物語を席巻していく。世代を選ばず、多くの観客の心に灯をもたらす良作だ。
コメントする