劇場公開日 2025年6月20日

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「分裂するアメリカ黒人社会」罪人たち かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 分裂するアメリカ黒人社会

2025年9月20日
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世界興行収入が527億円を突破、北米では“ここ10年で最も成功した映画”といわれているホラー映画だ。しかし2025年6月日本で公開後、早くもアマプラ通常料金での配信となり、客入りの悪さが容易に想像できる残念な結果に終わってしまった。巷では“ぬるめのフロム・ダスク・ティル・ドーン”などと形容されてはいるが、監督のライアン・クーグラーはまったく違った場所へ観客を導こうとしているのがみえみえの1本だ。

エンターテインメントとしては何とも中途半端な出来の本作だが、アメリカにおいていかに黒人が差別搾取され白人社会に吸収されていったかを語る寓話として観れば、これほどそそられる映画はないそうで、アメリカのSNSでも本作に関する論争が(特に黒人さんたちの間で)大変盛り上がっているのだそう。つまり、本作は一種のブラック・プロイテーション・ムービーなわけで、日本人の方がそのまま観てもいまいちピンとこない映画になっているのだ。

悪魔に魂を売ったギタリスト=ロバート・ジョンソンをモデルにしたサミーが奏でる哀愁のブルースにのって、一夜限りの貸し切りパーティを楽しむ人々。そんな黒人の皆さんに混ざって、サイケなエレキギタリストや黒人ラッパー、中国系京劇ダンサーに先住民と、時空の壁を突き破って現れた少数民族が唄い踊るシーンがとても印象的だ。ジム・クロウ法の下白人至上主義的差別が色濃く残ってはいたものの、少数民族同士協力し肩を寄せあって、それなりの“古き良き時代”をエンジョイしていたことが伺える。

しかし、サミーの奏でるブルースが悪魔をも引き寄せてしまう。ここで反トランプの配給元ワーナーブラザースはクーグラーに嘘をつかせていることに注意しなくてはいけない。マイケル・B・ジョーダン演じるプレミアムスコッチのような名前が付いた双子スタック&スモークの衣装を、わざとあべこべに着させているのだ。スタックの衣装が🟥の帽子に🟥シャツ🟥ネクタイに対して、スモークの衣装は🟦のベレー帽に🟦シャツ。ヴァンパイアに噛まれ悪魔に魂を売ったスタックを共和党=トランプ支持、スモークを勇敢な民主党支持者として演出しているのである。

確かにライフルを直ぐにぶっ放すような危ない連中にトランプ支持者が多いのは事実だし、MAGAというスローガンの下動きに統制がとれたトランピアンは、一糸乱れぬアイリッシュダンスを披露するヴァンパイアたちにそっくりだ。しかし、バイデン政権の白人閣僚は全てカソリックのアイルランド系で固められWASPが意図的に排除されていたこと、スモークのような退役軍人はそのほとんどがトランプ支持であること、ゲイではなかったものの黒人と白人ミックスの女ヴァンパイアのモデルはオバマ元大統領で間違いない?ことなどが、まったく考慮されていない。(ディディを彷彿とさせる)生き残ったスタックのような黒人セレブリティはほとんど民主党支持で、悪魔崇拝的乱行パーティはお手のものだからだ。

最後はどちらがどちらだかわからなくなるほど、スタック&スモークがお互い血だらけになって戦うシーンは確信犯的でさえある。いずれにせよ、BLMのようにアンティファを雇って意図的に暴動を仕掛けているのは民主党グローバリストたちの方であり、そのお仲間であるスタックには🟥ではなく🟦を着せるべきだったのだろう。そんな政治的工作があったにも拘らず今回若い黒人層がこぞってトランプに投票したらしいのである。どうもユダヤ人コミュニティに限らずアメリカの黒人社会も真っ二つに割れているようなのだ。

この映画にも登場するKKKのような差別主義者がのさばっていた時代は、共通の敵を持つ者として一つにまとまれた黒人の皆さんも、オバマ政権以降民主党の悪事が次々とトランプによってバラされてしまうと、何を拠り所にまとまれればいいのかわからなくなってしまった。今現在のアメリカにおける黒人社会の迷走ぶりが如実に伝わってくる作品なのである。むしろあからさまに差別されていた時代の方がわかりやすくて良かった。年老いたサミーのシワがれた歌声には、そんな黒人たちの鬱屈したノスタルジーが込められていたのかもしれない。

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かなり悪いオヤジ
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