「いろんな情報を入れずに観るのが正解」罪人たち kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
いろんな情報を入れずに観るのが正解
どんなテイストの物語なのかわからないまま話が進む映画がある。個人的には「ドリームキャッチャー」や「フロム・ダスク・ティル・ドーン」なんかがそれにあたる。本作もそんな雰囲気。事前にヴァンパイアが出てくると知っていなかったら戸惑っていただろう。ヴァンパイアが出てくると知って観ようと思った映画でもあるのだが。
序盤は地元に帰ってきたスモーク・スタックの双子と、その甥のサミーがバーを開店しようとする物語。出処が怪しい酒と金を持つ双子を演じるマイケル・B・ジョーダンはなかなか存在感だ。でもそれ以上の存在感を放っていたのがサミー役のマイルズ・ケイトン。単純に歌声が素晴らしかった(本人が歌っているかはわからないが)だけなんだけど。
途中から始まるヴァンパイアのくだりは嫌いじゃない。あの時代にヴァンパイアの弱点(物語としてでも)を知っていることに疑問も感じるが、そんな整合性を求める話ではないので目をつむることにする。面白かったのは、ヴァンパイアになることで色んな利点があるんだよと、ヴァンパイアへの転身?を誘うシーン。「鬼滅の刃」の猗窩座のようであり、藤子・F・不二雄のSF短編の「流血鬼」のようでもある。何かを極めようとする人間にとって不老不死は相当に魅力的な誘いだ。違う視点で考えても、あのヴァンパイアの集団は人種や性別の関係なく1つになれている印象もあって、人間社会より成熟しているように見えた。当時のアメリカで黒人が差別されている状況を考えると、意外と魅力的なお誘いだったのかもしれない。
ブルースは昔悪魔の音楽と呼ばれたこともあって、本作の題材として合っている。悪魔を呼び寄せてしまうという話も当時のブルースが良識のある層に嫌われていたことに関係しているように思える。新しい音楽は旧世代に嫌われるというアレだ。でも、悪魔を呼び寄せると言われることに耐えるのはかなり大変なこと。何か強い衝動がないとできないことだ。
一攫千金を企む黒人たちの話が、ヴァンパイアの登場で雰囲気を変え、でも最終的に当時の黒人が迫害されていた状況を描いていたのはなかなか巧妙。最後の現代シーン(バディ・ガイが出演していることもなかなかの驚き)は、友情と自由を語るいいシーンだった。ヴァンパイアものとしてすごく面白かったと言えないが、アメリカの現状を理解するためにそのベースとなる状況を訴えてくるという意味でとても意義深く興味深い映画だった。