「恋は一種の洗脳か」恋に至る病 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
恋は一種の洗脳か
■ 作品情報
廣木隆一監督作品。脚本は加藤正人、加藤結子。原作は斜線堂有紀の同名小説。主要キャストは長尾謙杜、山田杏奈。その他、醍醐虎汰朗、中井友望、中川翼らが名を連ねる。
■ ストーリー
転校生として新しい生活を始めた宮嶺望が、クラスの皆から慕われる寄河景に出会い、恋心を抱くことから始まる。二人は親しくなり、「どんな私でも守ってくれる?」という景の言葉に対し、宮嶺は彼女を守ることを約束する。しかし、同級生の不審死が相次いで発生するようになり、宮嶺は景への不審感を抱き始める。やがて、景が多くの人を死に至らしめた自殺強要サイト「ブルーモルフォ」の主催者でないかという疑念を抱くようになる。宮嶺は、景への変わらぬ愛情を抱き続けながらも、彼女に「化物」としての一面があるかもしれないことに葛藤する。
■ 感想
転校生である宮嶺が、クラスの人気者である景と徐々に距離を縮めていくという導入は、ありふれた青春物語ではあるものの、その初々しさは悪くないです。そこに、同級生の不審死が立て続けに発生し、景に向けられる疑惑が強まっていくミステリアスな展開は、強く興味をそそります。
特に印象的だったのは、主演のお二人の演技です。長尾謙杜さんと山田杏奈さんの自然な演技は、物語に深く引き込まれる要因となっています。中でも、その本心が見えそうでなかなか見えない景を演じられた山田杏奈さんの表現力はすばらしかったです。おかげで、景の本心はどこにあったのか、どこまで計算して周囲を巻き込んでいたのか、それとも無自覚に人を惹きつけるカリスマ性を持っていたのか、最後まで観ても明確な答えを得にくいおもしろさがありました。
しかし、やはり釈然としないものも残ります。ラストで刑事が、景による周到な洗脳であったかのように語る場面があるのですが、その決定的な証拠が提示されず、あくまで推測の域を出ないように感じられます。二人目の同級生の死の真相も曖昧なままでしたし、「ブルーモルフォ」というサイトの影響力もいまひとつ伝わってきません。さらに、なぜ同級生たちが景にそこまで忠誠を尽くしていたのか、クラスの人気者である景が宮嶺のどこに惹かれたのかも、よく理解できませんでした。結局、景が仕掛けた蜘蛛の巣に、蝶のごとき宮嶺がまんまと絡め取られたと見るべきなのでしょうか。しかし、それも景の恋心から発したことであるなら、恋の駆け引きであり、そういう意味では恋も一種の洗脳のように思えます。
こんな感じで、物語の進行に合わせて疑問が増え、後半はテンポが落ち、失速気味だったように感じられたのは残念です。もっと深く掘り下げれば、さらにおもしろくなりそうな要素があっただけに、そのポテンシャルを十分に活かしきれていない点が、もったいなく感じられます。
共感ありがとうございます!
原作未読なんですが、洗脳の原因となった「ブルーモルフォ」は脇腹に蝶々の傷を付けていた先輩ではなく景に強い影響を与えていた構成になっているみたいです。
それなら望を彼氏にしたりクラスメートを誘導して根津原を殺させるのは簡単なわけで、一番大事な部分を改変した上に大幅にカットしてしまっては、原作者の思いは全然伝わりませんよね。
何でこんな風に脚本を変えてしまったのか判りませんが、順当に原作通りに作っていたら、サスペンス寄りの学園ラブストーリーという滅多に観られない貴重な作品になったと思います。

