「旅とは、ゲシュタルト崩壊することかな」旅と日々 KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
旅とは、ゲシュタルト崩壊することかな
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前半は海辺、後半は雪山。海の岩場に人を置いてカメラで映してみると、大きさの比率がちょっとわからなくなって、すごく大きい岩なのに背丈と同じように見えたり、急に人を圧倒するように見えたり。雪山では、もちろん風景の境目が分からなくなる。
旅とは、そんなふうに人と背景の調整がうまくいかないところから始めることなのかな。途中に挟まれる主人公の言葉でも、異国からやってきた自分が意外に早く東京になじんでしまい、その「なじめなさ」を取り戻すために旅に出ることが語られる。
それから、音。主人公が泊まる宿の主人がいびきをかいて寝ているところは、その大きさにも苦笑するが、まだ「なじめていない」環境だから距離感が取れず、そのうるささが鼓膜全体を支配してしまう。
朝、目覚めると主人公が朝食を食べている横で、扉を修繕している主人が「すぐに直るから安心しろ」と叫ぶ。わざわざ食事中にやらなくてもいいのに、本当に「なじめない」(笑)。
映画の中盤、佐野史郎さん演じる師の咳がどんどん大きくなるところは、そのあと亡くなることを思うと不謹慎だけど、この映画で一番笑ってしまった。こういう風に日常に裂け目が入ることが死ということか。
思い返すと、海で出会った男女の若者が2人、夕闇の中で話し合うところは本当に好きだ。ここは、人の輪郭が夜の中に見えなくなっていくのだが、人間関係としてはむしろ「なじんでいく」のがわかるのだ。
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