「何かに囚われる不安な人々を描くつげ義春の世界」旅と日々 flushingmainstさんの映画レビュー(感想・評価)
何かに囚われる不安な人々を描くつげ義春の世界
夏の海の場面から始まる。若い男女が出会い、訥々と言葉を交わしてその交流が近づく。言葉が失速したりすれ違ったり、繊細な交流を河合優実と髙田万作が見事なタッチで演じている。やがて夏は不穏な空気と共にバランスを崩し、それは映画の一片であることが明かされる。上映が終わりシム・ウンギョン演じる脚本家の李は、質疑に応じて「私には才能がない」と溢した。なるほどこれは、「言葉といかに向き合って人は生きることを前に進めていくのか」と言う映画なのだと分かる。それに、つげ義春だし。李は「旅でもしてみれば」と勧められ、場面は一転して大雪の冬の田舎に変わる。ここにマタギのような人里離れて暮らすべん造という男が登場する。かなりステレオタイプに作られていたので最初はこの章も映画の一片か、李の思索の一部かと思ったが、何と現実であった。謂わば“言葉を探す旅に出た”李ににべもなく立ちはだかったのは、言葉を拒絶するただただ人当たりの悪い男だった。言葉探しに静かに奮闘する李を演じるシム・ウンギョンの健気で真摯な姿に大きな共感を覚えるが、彼女の旅はあえなく頓挫してしまう。作中の夏の映画の場面が余りにも繊細に言葉と対峙して心を掴まれてしまったので、冬の場面は梯子を外された感が強い。でもこれもまたつげ義春かとも思う。もしこのべん造という男を言葉にガッツリと向き合う俳優が演じていたならどうなっていただろうか…。柄本明さん…松重豊さん…年齢は関係ない、黒崎皇代くん。
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