「俳優を役の人物に昇華させる監督の技量」旅と日々 Butchmanさんの映画レビュー(感想・評価)
俳優を役の人物に昇華させる監督の技量
自分にとっての2024年のベスト作品は、三宅唱監督作の「夜明けのすべて」だった。
その監督の新作ということで、ほとんど情報を得ないままに映画館で鑑賞。
面白かったかと聞かれれば、「面白いわけじゃないけど、退屈でなく気持ちが楽になった」と答える。それは言葉をツールとする脚本家の主人公がモヤモヤと感じていた鬱屈感と敗北感が、冬の山奥の風景、そこに暮らす男の人生に触れ、言葉の呪縛から解き放たれるセラピーのような旅を共有する作品だ。
「夜明けのすべて」で圧倒的だったのは、監督の作品内の全てを「整える」技の素晴らしさだった。
監督が作品制作の過程で判断する全てを通して、これ見よがしなカメラワークや人物演技の整合性の無い起伏をきちんと排除して、作品を見事に「整えて」いたのだ。その中でよく知っているつもりだった俳優が今まで見たことない演技を引き出され、役の人物として作品に「存在」することになった。「夜明けのすべて」では、光石研がそうだった。そしてそれができる三宅唱監督の技量に感服したのだ。
新作の「旅と日々」では、堤真一の新たな真髄が引き出されていた。登場してしばらくは正面アップを意図的に(多分)避けられていたこともあって、堤真一と分からなかった。声色、動き方、表情、すべて今まで知っていた堤真一ではなかった。訳あって一人で山奥の宿屋(単に自宅のようだが)を営む初老の男がそこに居た。俳優が登場人物に昇華していた。見事だった。
原作については知識がない。セラピーのような内容に関しては、原作自体が持っているものなのかも知れない。しかし映画作品としての「整い」方は、紛れもなく三宅唱監督の技量の賜物だと思う。彼は今の日本映画の宝である。
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