「ガンギマリした画の迫力と奥行き」旅と日々 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
ガンギマリした画の迫力と奥行き
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映画の冒頭は確か東京のビル群だったと思うのだが、そこにはただビルとビルが重なり詰め込まれフレームに収まっていて、その画として決まりっぷりに膝を正した。そして後部座席で河合優実が寝転がっている自動車の窓から、ネットで覆われた崖の岩肌が映っている。それだけでもう前半「海辺の叙景」パートが醸すただならぬ空気が伝わる。さらにどっちに倒れてくるかもわからない河合優実の危うさが画面に置かれることで、大したことは起きないが--なんて前置きするのががバカバカしくなるくらいエキサイティングで目が離せない。4:3のアスペクト比は大きくうねる波を映すときにも効力を発揮していて、こっちは波のうねりに合わせてわあわあと狼狽えながら眺めていることしかできない。
トーンとしては打って変わってのんびりする後半も、雪景色の明るさとその向こうの暗さや、民宿の中の暗さと窓の外の世界の広がりが、しんしんと積もる雪のようにじわじわと押し寄せてきて、ずっとヘンな緊張感がある。ただそれがしんどいとか怖いとかではなく、わりとしょうもない人の営みと、併存している世界の境界線を登場人物たちと一緒に漂っているような、ほんのりした非日常感みたいなものはおそらく旅情にほかならず、シム・ウンギョンが帰っていく頃にはしょうがねえなあ自分もまあやれることをがんばりますかくらいには背中を押してもらえていて、とてもありがたい時間だった。
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