「ちょっと不思議な現実的非日常」旅と日々 TSさんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと不思議な現実的非日常
観終わった後、直ぐに湯治の旅に出たくなった。
特別心を動かされることもなく、淡々と流れる映像を眺めていた、という鑑賞体験だったが突然、湯治に行きたいなどという妙な欲求が出てきたのは、随分この映画に感化されたというか、癒やされた(癒やされたい)のだと思った。
スタンダードサイズで撮られたこの映像からは、観客の視点を縦方向に向け、手前と奥という意識を強める効果が感じられた。人間の普通の視野は横に広がっているものだ。最初は違和感があったが、自然とスクリーンに集中することができたし、撮られた画も、遠近、奥行きというものを意識していたように感じられた。
それから、音。夏の島の風、波、雨という自然の音。冬山の「しん」とした降雪の音。かんじきを履いて雪を踏みしめる音。そういう自然がつくる音がしっかり聞こえるように、変に脚色せずに録音されているように感じた。
「ケイコ 目を澄ませて」でも三宅監督は音を巧みに使って映画の雰囲気や登場人物の心象風景を表しているように感じたが、この作品にもそれが感じられた。
河合優実の佇まいはなんとも言えない雰囲気があって、一歩一歩揺れるように海辺へ近づく足取りから、渚の心の中で渦巻くモヤモヤした感情、ゴツゴツした岩場や暗いコンクリートの排水溝を慎重に足を運んで海へ近づいていく様に、一種の危うさを感じた。台詞なし、顔の表情の変化なしでも何か伝わってくるものがあった。
冬の李(シム・ウンギョン)の佇まいも、趣がある。帽子を被り、ロングコートにマフラーをした姿は凜々しいのだけど、どこか頼りなささが漂う。金田一耕助のように見えた。
彼女の旅は、観光地を巡る物見遊山の旅ではない。宿も決めず、何となく雪国へ行き、あてどもなく、なんとなく歩く。心を解放しようという意思と時間が無いとできない、ある種贅沢な旅だと思った。
べん造(堤真一)との会話がほっこりしていて少し可笑しい。
個人的には、李が寝転びながらふっと漏らした「さようですか」という台詞がナチュラルさとユーモアを併せ持つキャラクターが表現されていて気に入った。この台詞はアドリブだったという。彼女本来の持ち味と現場の空気がシンクロして出た言葉なのだろう。
べん造は、現実世界から断絶された世界で生きる仙人のような存在かと思ったら、夜の雪道の向こうに街の明かりや車のヘッドライトが見え、さらには警察官がやってきて病院に連れて行くなど、ちゃんと現実世界で生きているということが示される。
非日常だけども現実的である。
ちょっと癖のある登場人物たちが醸し出す雰囲気とちょっと不思議な会話が、空間を非日常的にしているように思われる。そしてそこに何か得体のしれない癒やしがある。この空間に入っていって、しばらくたゆたっていたいような気分になる。
あとからジワジワ効いてくる不思議な映画だった。
イイねコメントありがとうございます。確かに 素朴な昭和40年台の旅 ほっこりしますね。
昔は温泉地も整備されていませんので 鄙びた感じがいいですね😊 もっとも温泉地大抵は廃墟壊滅が。進んでますがね。
共感ありがとうございます。
セクシー河合さんは居たもののなんか世知辛さ、居心地悪さを感じる前半から、後半ガラリ変わりましたね。居心地悪さもなんかユーモラス、仕事じゃなくて生活のぶつかり合いだからですかね。
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