「残された家族の想いのたけ」兄を持ち運べるサイズに ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
残された家族の想いのたけ
長く関係を絶っていた兄の訃報を受け、
ゴミ屋敷同然のアパートを訪れた妹の『理子(柴咲コウ)』が
兄の元妻『加奈子(満島ひかり)』やその娘『満里奈(青山姫乃)』と三人で
遺品整理を進めるうち、今まで知らなかった彼の姿にふれることになる。
兄を演じるのは『オダギリジョー』。
自堕落なダメ人間に嵌っている。
が、嘗て『三浦しをん』がエッセイで、
「オダジョーのシャツにイン」と表現した色気は変わらずダダ洩れ。
どこか憎めない人たらしの中年男を好演。
とは言え、原作でも実際の兄は
肉親への、特に母親への依存度が強く、
平気でお金もたかるような人物だったよう。
昔から「死ねば仏」とも言う。
当事者同士の恩讐を戒める言葉とも捉えるが、
果たしてそうだろうか。
本作では、とりわけ前半部で、
兄の非人道的な行いが幾つも描かれる。
わけても、亡くなった母の葬儀の際のエピソードは
観ている者に義憤を感じさせるほど。
嘘を積み重ね、
妹からお金を巻き上げることも平気で行う、
外面はよくとも、内実は羞恥心もないような男に見える。
が、後半部になるほど、
自身が意識していなかった、
兄の別の側面が露わになることで、
頑なだった主人公の心は次第に解きほぐされる。
金をむしり取るための方便と断じていた言い分が、
実際は一片の真実を含んでいたことと併せ、
幼い頃に体験した彼の優しい行いが、
切ない記憶として蘇って来るから。
急ぎ荼毘にふし、
借りていた汚部屋の片付けも事務的にこなすつもりだったのが、
短い時間でも兄が暮らした土地で過ごすうちに起きる心境の変化は
ハートウォーミング。
彼が度々亡霊として現れるのはメルヘンチック。
〔蜘蛛の糸〕の『犍陀多』ではないけれど、
99%の悪でも僅かな善行をしているのだろう。
もっとも、多くの人は
それだけでは他者を許容する気にはなれぬもの。
その意味では、本作からはあくまでもファンタジーとの印象を受ける。
「持ち運べるサイズ」とは遺骨のこと。
兄が住んでいた多賀城から、
『理子』が住む滋賀までの移動の際の表現も、
実際は遺骨は「ゆうぱっく」でも郵送可。
ネット検索すれば、専用のキットも売られている。
もっともそれではあまりに味気ない。
たとえ骨であれ、人生の最期に肉親と短いながらも旅をするのが
えも言われぬ余韻を醸すし、
意表を突くエピソードも用意し、秀逸。
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