劇場公開日 2025年11月28日

「「支えであり、呪縛ではない」」兄を持ち運べるサイズに TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 「支えであり、呪縛ではない」

2025年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

中野量太監督による5年ぶりの新作。第38回東京国際映画祭に出品されていたことで興味を持っていましたが、今週、TOHOシネマズ日比谷で先行上映されることを知り早速の鑑賞です。
毎回“死生観”がテーマになる作品を作り続けている中野監督。そして今作もまた、突然、ゆかりがない土地の警察署から電話が入り、何の前触れもなく兄(オダギリジョー)の死を伝えられる妹・理子(柴咲コウ)が現地へ向かい、親族として兄の遺骨を持ち帰るまでの話。
冒頭にて、勉強机に向かう少年が、とあるきっかけに手に取る一冊の本。おもむろにその拍子をめくるとそこには「支えであり、呪縛ではない」とあります。この一言こそがまさに本作の全てであり、ひいては家族を喪ったことがあれば誰しもが何か感じるものがある“キラーフレーズ”。相変わらずの巧みな構成で、「やや緩すぎるかな」と思わせる前半の様子も、中盤以降はそれらがじわじわと効きだし、後半に至ればもう“波状攻撃”のように感情を揺さぶられて思わず嗚咽を漏らして抑えきれません。ただ、いわゆる劇場型な“カタルシス”とは違い、むしろそのシーンやセリフだけを切り取って見せられれば、「何とは無し」で「飾り気がない」ごく普通に見えるようなもの。だからこそ、それに「泣かされている」のではなく、あくまでそれを「自分を重ね、解るからこそ泣いている」と気づくのです。生きてるときは“呪縛”と諦めて遣り過ごしていたのに、喪って想うのはむしろ“自分への悔い、そして居なくなった寂しさ”。映画はそんな想いを浄化させるために“古典的なギミック”を思いっきり「有り」で展開する手法により、コミカル且つ羨ましいほどの幸福さで浸らせてくれます。
今作のキーパーソンである“兄の息子”・良一役の味元耀大さん。『ふつうの子ども』におけるやんちゃな陽斗役で記憶に新しいですが、今作も大変に印象深い演技で将来が楽しみな一人です。そして、何と言っても“私が一番泣かされた”のは元兄嫁・加奈子を演じる満島ひかりさん。元妻として、怒りはあっても愛が無くなったわけでない元夫への気持ち。そして母として、捨てられたと思われているのではと、すまない気持ちと不安に苛まれる息子への気持ち。普段のあっさり、さっぱりな態度と物言いの内に秘めた“深い情”が伝わって大変に感動しました。
実話ベースだけに共感できる人にとっては“わかりみ”が強くて深く刺さる作品。繰り返しになりますが「支えであり、呪縛ではない」、結局この一言に尽きます。参りました。
あゝ今夜は焼きそば、食べたいなぁ。。

TWDera
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