「すみっコを知らない層にはウケているが…」映画 すみっコぐらし 空の王国とふたりのコ 雑貨ハンバーグさんの映画レビュー(感想・評価)
すみっコを知らない層にはウケているが…
「すみっコぐらしは本来泣かせる必要のない作品だったが、一作目でやらかしてしまった」
という、明らかにシリーズを全然知らない人が書いた評が出てくるくらいにはこのシリーズも良く続いたものだと思った。
すみっコぐらしは原作絵本からして涙腺が壊れるくらいには泣けるコンテンツです。
泣かせに来ている感じよりも、すみっコ達の生き方を描写した結果共感値が高くて泣けてしまうというものであり、一作目はそれを通常営業で映画にした結果なので、「泣かせる必要がない」なんて感想は知ってたら絶対出ません。
さて今作、確かに単発で観る映画としてはそれなりの完成度にはなっているが、一般的な路線を目指しすぎてすみっコぐらしの映画としてはかなり不満足だった。
製作側はゲームシナリオのようにならないよう気を付けたとパンフレットで書いていたが、残念ながら移動→イベント→ミニゲームの繰り返しでその最中におうじ達の回想や幕間的なやり取りが挟まれる為、ハッキリ言ってゲームシナリオ感は全然回避出来ていない。
肯定的に捉えることを使命にしているタイプのファンは勝手に褒めてくれるから良いが、一般的な視点としては「へー、こんなもんなんだ、丸くて可愛いのが頑張ってるね」くらいの感想だと思う。
まずジョブをもらったすみっコ達もあまり活きていない。ねこの魔法ととかげのパワー増強がしばしば役立っていたけど、特に妖精アーチャーしろくまはマジでジョブが意味を成していなかった。
せっかく主役格がコンビで、ゲスト枠もコンビにしているのに殆ど交流が無く進むのは本当にどうにかして欲しかった。
おうじ達の出会いを回想で流すなら、おうじが一行に話して聞かせる交流の形にすりゃいいのにそれもしない。
バディ&バディ設定がほぼ死んでいる。
とんかつとえびふらいのしっぽが主役格じゃなくても、おうじとおつきのコの物語は成立してしまっているので、もし二人の絆でシナジーを作るならぺんぎん?と黄たぴおかペアでも替えが利いてしまうのが大減点だった。
冒頭のすみっコ達紹介で「あげっコ達」のくくりにして4人チームみたいな形で出しちゃってるのが完全にノイズだった。
いまサンエックスはえびてんのしっぽをかなりゴリ押ししているので、売りたい気持ちは分からないでもないが、アレ一つでとんかつとえびふらいのしっぽの個性を殺してしまうと気付けない辺り、過去作と比べてもかなり雑に思えた。
凡作かつ販促臭を隠しきれていない、という評価が
悔しいが妥当だと思う。
エビフライドンのぬいぐるみ再受注生産とか、ラストの雲バッジの受注販売とか、某ワニとまでは行かないけど商魂のたくましさが今回は目立った。
こちらとしてはてのりぬいぐるみ一式買い揃えるくらいにはグッズの基本予算を組んで用意しているし、販促するならもっと酔わせてほしいのである。
そういう意味では、週替わり入場者特典のエビフライドン指人形は、一週間じゃなく二週間にしといた方が良かったんじゃないかと思う。
うちには4頭居るが、あんなに並べて嬉しかった特典は超久々だった…もう普通に売ってくれ…良すぎる…
ストーリーは方々で言われているが、今作はこれまでの過去作と比較してもどんでん返しが特に無く、ホントに淡々とイベントだけで進む。
なので、おつきのコの伏線も全然隠さないから大人としては予想の範疇内で全てが終わる。
この辺、過去作に有った
「子供向け作品だが子供騙しはしない」
が今作は完全にすっぽ抜けている
(実質とかげスピンオフ作品の二作目ですら、他のメイン4人に「夢が叶わなくて苦しいなら、それを消した方が救済だと思うから消しといたよ→アイデンティティ消えて人格崩壊が発生」なんて重めなことをしている)
これまでのシリーズの良さであった「説明は主に二人体制のナレーションに終始し、すみっコ達の声は皆想像が違うから敢えて声優をつけない」という方式が、冒険規模の大きさのせいで今回ばかりは完全に裏目になってしまっていたと思う。
声をつけろということではなくて、尺が足りてないのに工夫を強いられていて台詞のやりとりが単調になってしまっているのが駄目なのだ。
特におうじとおつきのコの別れのやりとり。
唐突過ぎる上に会話が単調過ぎたし、予告で流されまくってたシーンだったからあまり来るものが無くて、「これは声が有ったらもっと密度のある会話になっていたんだろうな」と思ってしまったのが悔しかった。
このシーンはおうじとおつきのコの手が離れてしまった瞬間、えびふらいのしっぽが石碑に自らはまりこんで、アクシズを押すνガンダムばりにおつきのコの組み込みを阻止する時間稼ぎとかしても良かったんだぜ…とも思った。
私はとんかつ推しなので今回主役と聞いて期待し過ぎたきらいは確かにあるとは思うが、そこを加味しても今回はメインすみっコ側の設定行使が雑だと感じた。
あげっコ4人紹介してる所とか顕著で、しっぽずの3人はちゃんと残された時の画なのに、とんかつ一人だけ何故か「食べてもらおうと頑張ってる時の画」になってたり。
残されてしまった方の個性ネタも全然使われなかった。最大限観客側が好意的に見るならおうじ&おつきの孤独に重なる要素ではあるが、製作陣は別に作中でその点を絡みとして使っていない。
前作の方が残り物ネタとしては充実していたくらい。
本当にもったいないと思う。
そもそもとんかつは、公式設定に一代で王国を成した旧友が居る(EDのお祭りシーンに居た「とんかつ王」がそれ。彼は成り行きで残りものの王様になってしまったが、同じ境遇の者達の拠り所としてたべもの王国を建国して統治者をやっている)。
王様に対してかなりフレンドリーに接していたのはその要素かもしれないが、王様として国を守っている友人はおうじが初めてではないのだ。
前作の世界観構築で原作絵本からしろくまの家族ネタを引っ張って来られたなら、そういう既存設定の使い方でシナジーを高めることだって出来た筈だ。
めざせアイドルは今回は避けといた方が良かった。
おつきのコが翼を失ってしまったのはあの結末の代償らしいのだが、登場時点でマイナスの域から0地点に行こうともがき苦しんでいた歴代ゲストと比べ、プラス領域から0地点に戻された感が強くて、ちょっと伝わりづらかったかなと感じる。
パンフのインタビュー読んでいてもどこか記号的に思えた。
結局のところ、今回は世界観が過去一大きい上にゲストが増えてて、なのに尺は過去作と大差無いので製作陣はかなり大変だったと思う。
説明の必要がない誰もが知ってる世界の昔話を基盤にしている一作目や、序盤~中盤の舞台を「工場の中」に据えてシットコム的に誂えていた三作目とはここが決定的に異なっている。
ゲストが二人組だから必要な尺も増えているし、これが限界だったんだろうなぁ。
なので、とんかつの主役格としての活躍や、おうじと交流を期待していた視点として、評価は申し訳ないけど高くはなかった。
前作で降板させられたイノッチをちゃんと再起用している点と、カエラさんの主題歌に関してはとても良かったのでここは評価したい。
SNSで実質◯◯みたいな不快な例え話ネタに使われてたりしたすみっコぐらしだけど、別に私は泣ける映画が観たいんじゃなく、可愛いけどどこか陰のあるすみっコぐらしでしか出来ないドラマが観たいのだ。
可愛さ全振りなら他のコンテンツでも出来る。
キャラコンテンツ界隈は見た目の雰囲気に反して激戦状態だから色々大変だと思うが、来年に映画を控えているちいかわよりも、すみっコぐらしは優しさや愛をほどほどバランス良く摂取できるのがブランドの強みだと思っている。
ベストなハッピーエンドを一つ用意して没個性に落ちるより、無限大の愛で包まれたビターなハッピーエンドの方が似合うと感じているし、すみっコぐらしはそれが上手く出来るコンテンツなのだと、ファンとしては信じている。
一作目からすみっコ達が何かしてもらった時、「ありがとう」と返すやり取りが徹底されている点は今回もちゃんとあって、ここを蔑ろにしていないのはとても信頼している。
故にこのシリーズは何が魅力的なのか、製作陣が分析を進めてくれる願いを込めて次作を待ち、前売券用のお金を貯蓄する所存です。
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