バレリーナ The World of John Wick : 映画評論・批評
2025年8月19日更新
2025年8月22日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
スタントの意味を再認識させられる人気シリーズのスピンオフ
キアヌ・リーヴスがアクション俳優として美しい動きで観客を魅了して来た「ジョン・ウィック」シリーズ(2014~)にも、遂にスピンオフが登場。時系列的にはシリーズ第3作「ジョン・ウィック パラベラム」(2019)と第4作「ジョン・ウィック コンセクエンス」(2023)の間に設定されている。今回、キアヌが物語にどう関わるのかはさておき、第3作で難しいターンを繰り返していたバレリーナの少女が、闇の組織、ルスカ・ロマの下で一人前の殺し屋、イヴ・マカロへと成長し、父親の仇を討つために始動するというがプロットだ。
とあるミッションを遂行する過程で、父親を殺した暗殺教団の手がかりを掴んだイヴが、身寄りのない自分をルスカ・ロマへと導いてくれたコンチネンタル・ホテルの支配人、ウィンストンと忠実なコンセルジュ、シャロンの協力を得て、怒涛のリベンジに着手していく。思えば、第1作でジョン・ウィックの怒りに火をつけたのが、亡き妻からプレゼントされた愛犬を殺された恨みと喪失感だったわけで、復讐の動機はそれなりにアップデートされた、と言えるだろうか。

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アクションシーンはいつも通りアイディア満載だ。イヴが予め用意していた拳銃の類いや、背中に背負った日本刀を使って敵を絶命させるのはもちろん、たまたま氷の上に突き刺さっていたトマホークや側にあった意外な物たちが戦いの道具として即興的に使われる。つくづく、このシリーズのアクションはコレオグラフ(振り付け)と呼ぶに相応しい流れと即興性が魅力なのだと再認識した。演じるアナ・デ・アルマスはキアヌと同様、厳しい特訓を積んで撮影に臨んだという。アルマスのキャスティングは勿論、「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2023)でのコケティッシュなボンドウーマンぶりが評価されてのことだが、特訓の一つとしてチャレンジしたあるシーンでは、その手応えがあまりにリアル過ぎて泣き崩れたとアルマス自身が告白している。
しかし、俳優がどれほど自分でスタントをこなしたところで、それを受けていなせる一流のスタントマンがいなければ動きに流麗さは生まれない。俳優からスタントマンへの繋ぎも肝心だ。「ジョン・ウィック」シリーズ、そして、このスピンオフ映画は、そのあたりを熟知しているスタントマン出身の監督、チャド・スタエルスキが製作、または監督として関わった、スタントを見せるための作品群。だから、気がつくとリアルでリズミカルな格闘シーンに惹きつけられてしまうのだ。
因みに、本作のために動員されたスタントマン及び関連する業務に関わった人数は、アルマスのスタントダブルを担当したカーラ・マリー・チュールジャンを始め、総勢100名以上。例えば「ミッション: インポッシブル ファイナル・レコニング」(2024)のスタントチーム60名と比べても格段に多い。
(清藤秀人)