「実は秀逸な”お仕事系映画”だった」映画「F1(R) エフワン」 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
実は秀逸な”お仕事系映画”だった
本作のチラシには「地上版トップガン」というキャッチコピーが踊っていましたが、実際にジョセフ・コシンスキー監督をはじめ、「トップガン マーヴェリック」の制作スタッフが再集結して手がけた作品であり、その宣伝文句に偽りはありません。戦闘機がフォーミュラ1に乗り換えられただけで、映像や演出のテイストも非常によく似ていました。
主演はトム・クルーズではなくブラッド・ピットでしたが、トムは今年で満63歳、ブラピは満62歳なのでほぼ同年齢の円熟のスター俳優である点も共通。そして若い相棒とタッグを組み、ベテランが“オヤジの背中”を見せつつ若手を導いて勝利を掴むというストーリー展開も、「トップガン」と重なる部分が多く、まさに「地上版トップガン」と呼ぶにふさわしい内容でした。
物語は、かつてセナやマンセルが活躍していた時代に名を馳せた元F1ドライバー、ソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)が、低迷を極めるF1チーム「エイペックス」に加入するところから始まります。パートナーとなるのは、将来を嘱望されつつも実績に乏しい若手ドライバー、ジョシュア・ピアス(ダムソン・イドリス)。ふたりは今季初のポイント獲得を目指しますが、当初はチームワークも悪く、マシンも不調で散々な滑り出し。しかし、ソニーの経験に裏打ちされた荒削りながらも計算された走りと、チーフエンジニア・ケイト(ケリー・コンドン)がソニーの助言をもとに行ったマシン改良により、徐々に結果を出し始めます。
途中、ソニーとケイトのロマンスや、ジョシュアの大怪我といった山場を経ながらも、最終的にはふたりの息もぴったりと合い、チームとして栄冠を勝ち取る展開へ。ストーリー自体は典型的なスポーツ成長譚で、予定調和な部分もありますが、そのあたりも「トップガン」とよく似ていました。
とはいえ、本作の真の魅力は、そうした王道ストーリーそのものではありません。ここで強調しておきたいのは、三つの見どころです。
第一に、F1初心者にも分かりやすい丁寧な解説が随所に散りばめられている点です。F1が実はチームスポーツであるという基本的な理解から始まり、マシンの設計や開発の要点、ドライバーの訓練、レース中の戦術や駆け引きまで、物語に自然に組み込まれた形で紹介されており、実に秀逸な“お仕事系映画”としての側面も感じさせられました。
第二に、迫力満点のレースシーン。車載カメラによるドライバー目線の映像、空撮による俯瞰映像などが巧みに切り替えられ、観る者を臨場感たっぷりのF1の世界へと引き込みます。時にドライバーになったかのような緊張感を、時に観客としての高揚感を味わえる映像演出は圧巻でした。
そして第三に、主演・ブラッド・ピットの存在感です。軽妙でありながら、要所ではしっかりと締めるその演技は、まさに“ブラピ節”とも言うべきもので、年齢を重ねた今もなお第一線で輝き続ける彼の魅力が存分に発揮されていました。
そんな訳で、何も考えずに精神と肉体の解放感を味わえた本作の評価は★4.4点とします。

