劇場公開日 2025年6月27日

「●断然IMAXがおすすめ!視界いっぱいに広がる大迫力の映像と音、そして振動。匂いの再現は難しくても、これはサーキット体験にかなり近いのではないでしょうか?」映画「F1(R) エフワン」 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 ●断然IMAXがおすすめ!視界いっぱいに広がる大迫力の映像と音、そして振動。匂いの再現は難しくても、これはサーキット体験にかなり近いのではないでしょうか?

2025年7月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

斬新

ドキドキ

 モータースポーツの最高峰である「F1(R)」に挑むレーサーたちの姿を、ブラッド・ピット主演で描いたエンタテインメント大作。監督のジョセフ・コシンスキー、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマー、脚本のアーレン・クルーガーら「トップガン マーヴェリック」を手がけたスタッフが集い、F1(R)の全面協力を得て、グランプリ開催中の本物のサーキットコースを使って撮影を敢行。世界チャンピオンにも輝いた現役F1(R)ドライバーのルイス・ハミルトンもプロデューサーとして参加しています。

●ストーリー
 かつて天才と呼ばれたものの無冠のレーサー、ソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)は、引退を拒み、バンで生活しながら決して一か所にとどまることなく各地を転々としていました。1990年代にはチーム・ロータスからF1に参戦していた時もありましたが、スペイングランプリでのクラッシュにより重傷を負い、彼のF1キャリアは幕を閉じてしまったのです。その後はギャンブル依存症に陥り、現在はレースからレースへと渡り歩く生活を送っていたのでした。
 そんな彼がデイトナ24時間レースで優勝した後、かつてのロータス時代のチームメイトであり、現在はAPXGP F1チームのオーナーであるルーベン・セルバンテス(ハビエル・バルデム)から声がかかります。APXのセカンドドライバーがシーズン欠場となったため、セルバンテスはヘイズにテストドライブの機会を提供したいというのでした。
 ただしAPXは最下位に沈んでいて、今シーズン中にチームが1勝も挙げられなければ、投資家により自分が解任される可能性があるとセルバンテスは明かすのです。
 F1で低迷しているチームであることを承知のうえで、セルバンテスは職を懸けてヘイズに賭けたのでした。ヘイズも渋々ながらその賭けに乗る決意を固め、残り9戦に挑むこととなるのです。

 枠にとらわれないソニーの行動は、自信家で若きレーサーのジョシュア・ピアス(ダムソン・イドリス)をはじめ、チームメートとの衝突を生んでしまいます。
 しかし次第にソニーの圧倒的な才能と実力にチームの面々は導かれていきます。ソニーはチームとともに過酷な試練を乗り越え、並み居る強敵を相手に命懸けで頂点を目指していくのでした。

●解説
 反発するルーキーと自分のスタイルで筋を通すベテランの関係を軸に、同じプロデューサー、監督、脚本家が手がけた「トップガン マーヴェリック」を思い起こさせる熱い物語が展開します。
 驚くことに撮影では、運転技術を磨いたピット自身がグランプリ開催中に本物のサーキットを走行したというのです。
 最近、別作品でまもなく63歳になるトム・クルーズの超絶アクションに驚いたばかりですが、61歳のピットも負けていません。自らマシンのハンドルを握り、時速300㎞超にもなる走行シーンをこなしました。
 俳優として、自らを刷新し続ける覚悟に頭が下がる思いです。行く先々でもめごとを丸く収めては、気の向くまま流れていく。ピット演じるソニーには西部劇のすご腕ガンマンに通じる自由さと無頼性があります。現在地に安住しない開拓者精神に、見る者も鼓舞されずにはいられません。哀愁と色気、危うさと余裕を併せ持つピットの魅力が、全編でさく裂しています。
 練られた王道の展開とハンス・ジマーの音楽も最高に気分を盛り上げます。全方位的に大満足のハリウッド大作となることでしょう。

 最弱チーム、落ちぶれた人物の復活、仲間とのトラブルに恐れ知らずの荒唐無稽な作戦と、ハリウッドが大好きな大逆転劇の要素満載。こんな主人公を堂々と演じられるのは今や希少になった正真正銘のスター俳優だけ。60歳を過ぎ、純粋さを残しつつも渋みや年輪が加わったブラピの新たな代表作となりました。

 特に強調したいのは、スター映画でありながらチーム一丸となって戦うモータースポーツとしての醍醐味もしっかり描写されていることです。これまでのレース映画は主人公の超人的な活躍やマシンの高性能さにスポットが当てられてきました。しかし本作では、チーム対抗の頭脳戦とも言えるFIレースの醍醐味がたっぷりと詰まっていることです。技術の結晶であるマシンももちろん重要ですが、緩急の巧みさといったレース戦略が結果を左右することが本作では明らかにされており、今後のレース観戦の見方をガラリと変えることでしょう。。
 それにしてもレースのルール違反すれすれを狙って、いろいろ仕掛けるソニーの戦術には唖然としました。しかもどう見てもとっさに思いついたヤマ勘と思いつきによる出たとこ勝負にしか見えません。しかし、彼の作戦は一定の理論に基づいてたから驚かせられました。多くの失敗と事故で壊れかけたチームの風向きは、彼の作戦により次第に変わり始めるのです。
 なお本作のモデルはマーティン・ドネリーであり、彼のレース人生が色濃く反映されています。テロップの終わりには、彼への謝辞が添えられていました。

●感想
 ベルギー、アブダビ、モンツァ、日本の鈴鹿と、各地を転戦するシーンは祝祭感にあふれています。その裏でうごめく陰謀、命がけの駆け引きといったサーキット内外のドラマが描かれ、恋愛的要素も盛り込まれているのです。アーレン・クルーガーと監督の共同脚本は欲ばり過ぎなのかもしれません。でも、お決まりの展開が気にならないほどにコンマ数秒を争うスピードの世界に引き込まれてしまいました。
 ところでこれまでのレース映画のなかにあって、本作のソニーという風来坊ドライバーほど勝ちに意味を求めない人物も珍しいのではないでしょうか。
 ツキが落ちるといって優勝杯にも触らず、所詮はギャンブルだとでもいうように験担ぎにトランプを1枚ポケットにしのばせています。
 金が目的でないなら、なぜ走るのかとソニーが問われるシーンが2度あります。彼はただ「やれやれ」といった表情を見せるだけでした。レースをするのはレースがあるからで、彼からすれば、その問い自体が無意味なのでしょう。彼の陽気なニヒリズムを、ピットのスター性が支えます。
 過去のレース映画では、あれこれ意味が糊塗されてきましたが、本作はむしろその競技の無償性を描いています。華やかなF1の舞台を根こそぎ否定しても、映画として成り立っているのは、ひとえにピットのスター性に負うところが大きいと思います。

 映画は、ソニーがデイトナ24時間レースで勝利するところから始まり、バハの砂漠レースに向かうところで終わります。F1という晴れ舞台も、彼にとってはあくまで通過点なのでしょう。ピットが歩くロングショットがやはり2回繰り返されます。ゆったりとした足取りが余裕と達観に満ちていました。それは、どこまでもすがすがしいのですが、これまでのレース映画のエンディングを大きくひっくり返していると思います。これはネタバレではありませんので、どう大きくひっくり返しているか、ぜひ劇場で感じ取ってみてください。

●断然IMAXがおすすめ!
 レースの臨場感を再現するため、FIが全面協力。製作も兼ねたルイス・ハミルトンをはじめFI界のそうそうたる顔ぶれのトップレーサーが多数特別出演しています。それだけにレースの臨場感は折り紙付き。巨大スクリーンと優れた音響で見るべき快作です。
 IMAX上映はただサイズを引き伸ばしたというわけではなく、本作ではIMAX専用カメラで撮影されており、通常の35mmの4倍の面積を持つ70mmの大判フィルムで撮影されています。それだけにフレームごとの情報量は多く、高解像度の映像が楽しめます。場内の照明が消え、映写機が回り始めれば、気づいたら気持ちはスクリーンの中。時速300kmの世界へと誘われることでしょう。

 また監督を務めたジョセフ・コシンスキーは、映像技術をトップガン最新作のさらに一歩先へと押し進め、劇中車には通常のF1国際映像で使用される画角の他に、遠隔操作が可能なSONY製の小型カメラを4基搭載し、生のスピード感を捉えたそうです。視界いっぱいに広がる大迫力の映像を前に、ブレーキングのシーンでは、思わずブレーキペダルを探して足を踏み込みそうになりました。まさにそれほどの臨場感を感じたのです。

 さらに臨場感において、音は欠かせない存在です。IMAXでは強力な音響システムが採用されており、耳だけでなく、身体が震えるほどの音圧を肌で楽しむことができます。もちろん通常版でも大いに楽しむことは可能ですが、やはりF1を体感するなら、最高のパフォーマンスを引き出せるのはIMAX版でしょう。そしてハンス・ジマーの音楽が奏でる重低音がさらなる高揚感をもたらすのです。

 迫力や音、振動に匂い……レースの魅力を全身で味わうにはサーキットで体感するのが1番だと常々言われてきました。それは間違いではありませんが、サーキットは基本的に遠方に位置し、故にモータースポーツは身近な存在になることが難しいとされてきたのです。

 IMAXを通して感じた、視界いっぱいに広がる大迫力の映像と音、そして振動。匂いの再現は難しくても、これはサーキット体験にかなり近いのではないでしょうか?

流山の小地蔵