「孤高の天才ソニー・ヘイズの魅力炸裂!」映画「F1(R) エフワン」 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
孤高の天才ソニー・ヘイズの魅力炸裂!
《IMAXレーザー》にて鑑賞。
【イントロダクション】
ブラッド・ピット主演。 かつてF1®︎(フォーミュラ1〈Formula One〉)レースの世界で天才と呼ばれた伝説のレーサーが、ランキング最下位の最弱チームを優勝させる為に復活する姿を、『トップガン マーヴェリック』(2022)のスタッフが再集結して描く。
製作にジェリー・ブラッカイマーとチャド・オマン、監督:ジョセフ・コシンスキー、脚本:アーレン・クルーガー、撮影:クラウディオ・ミランダ、音楽:ハンス・ジマーと豪華布陣が勢揃い。更に、現役チャンピオンのルイス・ハミルトンがプロデュースに参加。F1®︎全面協力の下、実際のレースサーキットで撮影された。
【ストーリー】
かつて天才と呼ばれ、伝説となっていたレーサー、ソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)は、過去の事故によって表舞台から姿を消し、耐久レースチームの助っ人として生計を立てながら、自由奔放な車中生活をしていた。
ある日、元チームメイトで現在はF1チーム“APX GP(エイペックス)”の代表を務めるルーベン(ハビエル・バルデム)から、自身の受け持つ最下位のチームを救ってほしいと依頼される。このままだと、チームは売りに出され、ルーベンは代表としての役職を失い、多額の借金のみが残るからだ。
チームに参加する事にしたソニーは、チームの若きエース、ジョシュア(ダムソン・イドリス)と対立を繰り返しながらも、チームを救うべく時に違反ギリギリのダーティプレイを、時に命懸けの作戦を駆使して、次第にチームを導いていくようになる。
【感想】
実に景気の良いスポーツ・アクション映画だ。F1®︎の全面協力に現役世界王者の監修、実際のサーキットでの撮影と主演のブラッド・ピットによる実際の運転と、とにかくリアリティの追求に余念がない。本作のタイトルロゴまで実際のF1®︎と同じロゴを使用するという徹底ぶりだ。
また、各国で開催されるレースをダイジェストながらも次々と見せつけてくるスケールの大きさは、本作の一流キャストと一流スタッフという超豪華布陣だからこそ成せる技だろう。
特に素晴らしいのが、オープニングでの掴みの鮮やかさだ。ソニーが耐久レースでチームを勝利に導いてからの、かつてのチームメイトからのスカウト。新しい戦場となるF1チームの紹介と、観客を物語世界に没入させる手際の良さが抜群で、一気に期待感を煽られた。よく、脚本術の指南書等でも“優れた作品は掴みから既に面白い”というのは定石だが、本作はまさにそのお手本のような出だしだった。
しかし、そんな序盤でのテンポの良さ、展開の面白さが災いしてか、中盤以降、特にクライマックスにはもっと劇的な展開を期待してしまい、若干の物足りなさと肩透かしを食らった印象。ソニーの勝利への卑怯な戦法等、序盤にレースを制する為の駆け引きの面白さを見せ過ぎてしまった為、最も盛り上げなければならないラストのモナコGPは、尺的にも物語的にも割と淡々としており、せっかくのチーム優勝もイマイチ乗り切れなかった。
中盤でソニー達が互いに意見し合ってチームワークを築く為に行ったポーカーであった台詞のように、中盤までで「強い手札を切り尽くした」印象。その為、中盤までヒートアップする一方だった熱が、鑑賞後には殆ど冷めてしまっていた。やはり、物語というのはクライマックスにこそ劇的な展開が必須なのだと再確認した。そう言った意味でも、クライマックスに怒涛の盛り上がりを見せた『トップガン マーヴェリック』と比較すると、本作のキャッチコピーである”地上版〈トップガン〉誕生!”は、些かオーバーに感じられた。
しかし、実際のサーキットでの撮影によるレースのリアリティ、座席カメラからのまるで自分もレースに参加しているかのような抜群の疾走感は、優れた環境での鑑賞に適しており、鑑賞料金分の価値は十分にある。
【孤高の天才、ソニー・ヘイズの魅力】
ブラッド・ピット演じるソニー・ヘイズというキャラクターは、彼のキャリア史上でもトップクラスに来る名キャラクターとなったのではないだろうか。
かつては天才として持て囃されながら、クラッシュ事故により表舞台から姿を消してしまう。生活費を耐久レースチーム等に参加して稼ぎながらも、特定のチームには属さず、車中生活を送っては次のレースを求めて旅をする。トランプゲーム好きな性格から常にトランプを携帯し、レース直前にはシャッフルした山札から選び取った1枚を御守りのようにポケットに仕舞うというルーティーンを行う。
若かりし頃は、頂点を夢見て走り続けていたが、事故により背中を負傷。診断書には“次、大きな事故をすれば失明や半身付随、植物状態に陥っても不思議ではない”と記載されながら、それでも彼は走り続けてきた。レースの最中、極限の集中状態で見えてくる、“全ての時がゆっくりと流れ、飛んでいるかのような感覚”を求めて。
作中でもケイト(ケリー・コンドン)からカウボーイだと指摘されるように、流れ流れて各地でチームを勝利に導いては、自身はその栄光に酔いしれるでもなく、新たなレース、新たな挑戦を求めて去っていく。彼の姿は、正しく現代のカウボーイだ。そんな彼の孤高の姿に痺れる。
ラスト、メキシコ・バハでの砂丘レースに参加する彼の生き生きとした表情が最高だ。世界一のタイトルを手にしても、彼にとっての挑戦はまだまだ終わらないのだ。それは、演じるブラッド・ピットが60歳を超えた今も尚ハリウッドの第一線で活躍し続けている姿と重なる。
ところで、ソニーが優勝後に確認したトランプには何が描かれていたのだろうか?ようやく手にしたF1王者の称号に相応しいK(キング)だろうか?自分がチームに呼ばれた順番として口にしていた9(ラッキー9)だろうか?
こうした考察をするのも実に楽しい。
【総評】
圧倒的没入感と疾走感、ブラッド・ピットの熱演とソニー・ヘイズという孤高の天才キャラクターの魅力が炸裂した本作は、まさに王道のハリウッド大作映画だ。
クライマックスの展開にもう一捻りとドラマが欲しかった感は否めないが、この贅沢な映画体験は劇場の大スクリーンで体感せねばならないのは間違いない。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。