「人生の羅針盤をくれる大傑作!」映画「F1(R) エフワン」 ノンタさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の羅針盤をくれる大傑作!
この監督の大傑作との評判も高い前作「トップガン・マーヴェリック」。すごく好きなタイプの映画のはずなのに、なぜか入り込めなかった。
そして、今回のこの一作も。ドルビーシネマの映画館で、大迫力の映像と音響の中、前日の不眠もあってウトウトしながら、観てしまった。
しかし、それでも最高評価です。2ヶ月後に定年を迎える、これからの僕を支えてくれる大切な一本になりました。
どうも集中できなかったのに、一気に引き込まれたのは、もう終盤の最後のレースの場面。そのレースでも、スリリングな展開が大迫力の映像と音響で表現された後、突如、映像も音響も静かなものに変わる。
演出が急に変わるので「え、なんで」という感じ。それで僕も集中力が戻ったのだ。
この演出は、ブラピのパフォーマンスが神がかったレベルにまで上がったことの表現だった。それはぶつかり合った上で盟友的存在になったチームの設計者の女性の「飛んでるのよ」というような言葉で示される。ブラピが覚醒し、完全集中の世界に入り込んことの表現だったのだ。
設計者の女性は、それまで一緒に戦った何回ものレースを見て、ブラピは怒っている時が一番速いことを知っていた。怒りをエネルギーとして、限界を超える無謀な走りを可能にするのがブラピだった。だから、わざと怒らせたままにしておくような場面もあった。
僕も怒りのエネルギーで集中力を起動させて、怒りが静まったら、それは満足いく仕上がりだということは結構多いから共感した。
でもそれはブラピにとっては、最高の状態ではなかった。
彼女とブラピは「なぜこの仕事をしているのか」を語り合ったことがあった。(こういう話を本音ですることが、同じ仕事を共にする人同士の結びつきを強めるのだと思う。)
彼女の答えは、「この仕事を選んだことが正解だったことをかつての知り合いたち、過去の同僚や恩師たちに証明したい」というようなことだったと思う。つまり自分の有能性を示し成功することで、自分を納得させたいのだ。承認欲求と自己実現欲求を満たしたいということだと思う。
それに対してブラピは「空を飛びたいんだ」。車で走っている時に、その感覚になることがあって、それを求めているんだというようなことを言っていた。
これは「フロー=完全集中の世界」に入ることこそが最大の報酬だという認識をブラピが持っているということだ。ミハイのフロー理論と完全に一致する。
僕もフローになっている感じは、好きというか、できるなら毎日でもそうなりたい。でもなかなか組織で働いていると難しかった。
ToDoリストはいっぱいで、マルチタスクで、急なアサインが多かったり、そんな中ではフローの瞬間はまずやってこない。でも、確かに自分がいい仕事できたな、能力出せたなという過去の思い出には、フローの感覚が伴っている。
挫折と失敗だらけのブラピの人生最大の栄光がこの後訪れる。最大の賞賛と承認、苦労は報われ栄光が訪れたという映画的カタルシス。
しかし、ブラピはこの栄光に無頓着である。トロフィーは自分で受け取らず、レース後のインタビューも祝勝パーティーにも参加しない。大金が得られる次へのオファーにも心が揺れない。
そして、チームを離れ一人の旅人に戻り、「あの感覚」を得られる場所を探しに出る。
そこでは「金は安いぞ」という相手にブラピは「金は目的じゃない」というようなセリフで返す。彼の目的は、ふたたび「あの感覚」つまりフローを得ることなのだ。
ただし、チームでの経験を経て「あの感覚」にはもう一つの要素が加わったことが暗示されていると思う。それは「一つの目的に、新たな仲間と一緒に向かう」それでしか得られない感覚が最高の報酬に加わったのではないか。
仕事の目的として、お金と承認以外のものを一つ持つことができたら、もうそれで成功だと思う。それなのに、ブラピは、「フローの感覚を得ること」そして「仲間と共に何かを成し遂げる」この2つの目的を、人生後半の目的としたことが示される。
僕も、あと2ヶ月後に定年を迎える。先週、雇用延長を断り、業務委託も断った。それで、売上利益を目的にしない一人法人を立ち上げようと思いついた。そこでは、ブラピのような最高の報酬を得られるだろうか。
このタイミングでこの映画に出会えて良かった。ウトウトしながら観てごめんなさい。大事な一作になりました。
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