「総ての道はアクションに通ず。 インドの映画力は世界一ィィィ!」RRR ビハインド&ビヨンド たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
総ての道はアクションに通ず。 インドの映画力は世界一ィィィ!
植民地時代のインドを舞台に、友情と使命の狭間で揺れる2人の闘士、ビームとラーマの活躍を描いたアクション映画『RRR』(2022)の制作舞台裏に迫るドキュメンタリー。
監督はS・S・ラージャマウリ。
○出演
S・S・ラージャマウリ…『RRR』監督/脚本。
ラーム・チャラン…A・ラーマ・ラージュ役。
2022年、その圧倒的な面白さで世界を席巻したインド映画『RRR』。全世界興行収入は約130億ルピー(200億円くらい?)で、これはインド映画史上第4位の興行収入記録とされている。第95回アカデミー賞では歌曲賞を受賞するなど、世界的な評価も高い文句無しの傑作である(ちなみにこの年のアカデミー作品賞は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』である。確かに『エブエブ』は良い作品だが、『RRR』ほどの熱烈なブームを巻き起こしたのかと問われると…)。
本作はS・S・ラージャマウリ監督や主演を務めたN・T・R・ラオ・ジュニア&ラーム・チャラン、作曲家M・M・キーラヴァーニといった主要俳優やスタッフに焦点を当て、彼らが如何にして『RRR』を作り上げたのかを映し出して行く。
ちなみに、Netflixでは『モダン・マスターズ:S・S・ラージャマウリ』(2024)という作品が配信されているが、これはラージャマウリの初期から現在に至るまでのキャリアを振り返るというドキュメンタリーである。本作と併せて鑑賞すれば、より『RRR』の深みを覗く事が出来るでしょう。「監督は頭がおかしい」とぼやくNTRや、「撮影がキツすぎて、ナートゥを聴くと蕁麻疹が出るようになっちゃった」と嘆くチャラン兄貴の姿は必見です。
鑑賞して思うのは、インド映画界の元気の良さ。エキストラの人数や火薬量、CGのクオリティーなどは日本映画のそれを遥かに上回る。
なにより、撮影日数の潤沢さが業界の体力を表しているように思う。コロナ直撃により一時的にストップしていたとは言え、2018年11月から2021年の8月まで、撮影期間が約3年もあったというのは中々に驚く。日本映画なんて2〜3ヶ月くらいしか時間が取れないのに…。
ラージャマウリはキューブリックの様に何度もリテイクを繰り返すことで作品の完成度を高めていくタイプの監督。その拘りゆえ、NTRに掴み掛かられるというピリッとした場面が本作に映し出されていたが、1シーンに15日以上かけるというラージャマウリ流撮影術は、インド映画界の懐の広さがなければ実践出来ない。それによって映画の完成度がここまで高められているのだから、やはり映画には「早い、うまい、安い」の吉野家流は通用しないのだ。
IT大国インドなだけあり、やはりCGの技術は素晴らしい。だが、『RRR』の素晴らしさはそれに驕る事なく、ミニチュア、セット、そして生身のアクションを駆使して映像を作り上げているところにある。
特にNTRとチャラン兄貴の体の張りようは凄まじい。2人の出会いのシーン。水中で固い握手を交わすあの印象的な場面を、まさか本当に演じていたとはっ!!
近松門左衛門曰く、芸は「虚実皮膜」である。嘘と真実の間にこそ、芸術の真髄は姿を見せる。
猛獣が大暴走するという大嘘をCGで描き込みながら、逃げ惑う人々の視線や挙動には細心の注意を払う。セットやエキストラはCGで水増しするが、肉体改造やシンクロダンス、二心一体の肩車合体などは徹底的に生身の役者に叩き込む。大嘘は付くが小嘘は許さない、その姿勢が『RRR』の持つ奇妙な説得力の秘密なのだと思う。
ラーマvs群集、ビームvs虎、運命の出会い、ナートゥダンス、英領事館への殴り込み、鞭打ち、肩車、ラーマ覚醒、そしてエンディングと、各名場面の裏側を映画の最初から順番に解説していくというシンプルなスタイルで、『RRR』のベストアルバムとしても機能している。その為、「メイキングになんか興味ないよ🥱」なんていうライトなファンでも、本作を観ればあの『RRR』の感動を再び味わう事が出来るはず。
もし3時間というランタイムを理由に鑑賞を躊躇っているという人が身近にいれば、いきなり今作から布教してみるというのも一つの手かも知れない。
製作陣の人柄を知る事が出来るのも今作の鑑賞ポイント。ラージャマウリ監督の映画に向き合う姿勢とキラキラとした瞳は、彼が幼少時代から憧れているというスピルバーグ監督にそっくり。アカデミー賞という晴れやかな舞台でスピルバーグやジェームズ・キャメロンと言葉を交わすラージャマウリ監督の姿を見て、この映画が世界的に評価されて本当に良かったとつくづく思えた。
印象的だったのは作曲家のキーラヴァーニさん。彼がアカデミー会場でカーペンターズの「トップ・オブ・ザ・ワールド」(1972)の替え歌を歌った事は知っていたが、まさか作曲したリチャード・カーペンター本人がそのアンサーソングを歌っていたとは!その事を語るキーラヴァーニさんの感極まった表情に、こちらまでもらい泣き😭
映画の制作現場にはハラスメントが蔓延しているというイメージがあるが、ラージャマウリ組からはその様な気配が全く感じられない。基本的に親族で構成されているからだろうか?
とにかく、製作陣や俳優陣の面々の人柄の良さに、ほっこりする事が出来ました。映画を作るならこういう現場で働きたいっ!
「映画にメッセージは込めない」と明言するラージャマウリ監督。日々の憂さを晴らすために観るのが映画なのだから、作り手の思想は不要。徹頭徹尾エンターテイメントを貫く、というのが監督の信条である。
だが、だからといって監督の作品がただの空騒ぎではない事は『RRR』を観れば一目瞭然。これは「メッセージを込めない」という監督の強固な意志が、既に1つの断固たる思想として映画に反映されているからに他ならない。
メッセージ性を込めない代わりに描かれるのは、アクション!アクション!!アクション!!!の連続。この怒涛のアクションシーンが、「映画は娯楽である」という監督のメッセージを百の言葉よりも雄弁に語っている様に思う。
とにかくインド映画界のパワー、そしてラージャマウリ率いる凄腕集団の才能を存分に浴びる事が出来た。インドの映画力は世界一ィィィ!できんことはないイイィーーーーーーッ‼︎
こういう環境なら、新たな才能が次々と生まれて来ても不思議ではない。アニメか安い映画しか作れなくなった日本からしてみれば羨ましい限りである。
再び『RRR』の熱を浴びる事が出来たのは嬉しいのだが、気になるのはやはりラージャマウリ監督の新作。
もはや監督の映画力はスピルバーグにも引けを取らないと思うのだが、その撮影スタイルから制作に時間がかかってしまうのがネック。「マハーバーラタ」を題材にした超大作を作ろうとしているという噂もあるが、まだ撮影が始まっていないのだとすると、映画の完成は一体いつになるのやら…。ドキュメンタリーなんて作ってないでサッサと新作に取り掛かってくれよ!…と言いたくなってしまうのは自分だけだろうか?
何にせよ、ラージャマウリ監督は高齢化が進む映画界における最後の期待の星(といっても51歳なんだけど)。これからも応援し続けますので、なんとか国内未上映未配信未ソフト化の過去作を日本でも観られる様にして下さい🙇