「一応BLM作品」タイラー・ペリーのデュプリシティ 嘘と裏切り 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
一応BLM作品
Amazon MGM作品である本作は、
一見つかみどころのない導入から始まるが、
次第にその真価を発揮する力作だ。
オープニングは軽快なトーンで幕を開けるものの、
物語の方向性が曖昧で、
観客は「この映画はどこへ向かうのか」と戸惑うかもしれない。
しかし、事件発生あたりから、
作品の本質が徐々に姿を現し始める。
本作が扱うテーマは、
過去の名作「夜の大捜査線」から「クラッシュ」「デトロイト」
に連なる、BLMを扱った作品と言えるだろう。
しかし本作はBLMを形だけ扱い、重く扱わず、
社会的正義と人間の葛藤を絡めたサスペンス作品となっている。
特に、被害者側の家族や仲間を中心に描くことで、
デリケートな題材に真っ向から向き合っている。
正義、正当防衛、暴動、差別、怒り、金、
コンプライアンスといった重厚な要素が織り交ぜられたシナリオは、
時に複雑に絡み合いながらも、
物語の核心を力強く浮かび上がらせる。
前半は、演出や撮り方、カット割り、
編集には若干の粗さが感じられる。
シーンの間合いが冗長だったり、
トランジションがぎこちなかったりするシーンもある。
しかし、事件の核心に物語が進むにつれ、
まるで監督がギアを切り替えたかのように、
映画のトーンが一変する。
物語後半の意外なプロットツイストの仕掛けは、
特筆に値するが、
前半の緩さがが全体の印象をやや損ねている点は否めない。
総じて、本作は、序盤の不透明さを乗り越え、
テーマの重さとエンターテインメント性を両立させたなかなかの秀作だ。
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