劇場公開日 2025年6月20日

「「ストーリーが明確でなくても楽しめる早川千絵監督作品」」ルノワール かなさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「ストーリーが明確でなくても楽しめる早川千絵監督作品」

2025年7月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

斬新

小学五年生の少女フキが主人公。つまりこの映画は、少女の視線から描写されている。少女がある事柄をわかる、知ることは、事柄の全体像ではなくある断片に限られていく。「なんとなくわかる、知る」というイメージだ。だからこの映画には明確なストーリーはない。なぜならフキの視線の断片の寄せ集めだからだ。

フキが置かれている家庭環境の断片が二つの作文にあらわれる。超能力、催眠術、カード当て、テレビから得た情報の断片をうけてフキはやってみる。ただ不思議な描写が入り込む。夫を亡くした女性にフキが催眠術をかける。催眠術がきいているのかいないのかわからないが、女性は自分の思いをストレートに語るシーンのみがストーリーになっている。なぜなら彼女は大人であり物事の全体像をはっきりと把握できるからだ。

少女と大人の区別を明確にし、なおもフキの断片を描写していく。少女同士の遊び。何かを見つけたフキ。この遊びにフキの残酷性の断片を見る。伝言ダイヤルにはまり、大人の誘いに軽々とのってしまう危うさと未熟さの断片。病院でルノワールの絵を見つめるフキの断片。ガン末期の父の病室に飾られるルノワールの絵の断片。父親が一時帰宅したとき、父が部屋を開けると母の喪服がつるされ準備されていたのを見た瞬間、フキは電気を消し部屋を閉める優しさの断片。母がなんとなく浮気している男の周りを自転車でぐるぐる回り無視して走り去る断片。父が亡くなっても覚悟をしていたからたんたんとし、ルノワールの絵をはずして自分の部屋に飾り、父のことは忘れないという優しさの思いのこもった断片。

この断片の数々がフキの記憶となり人間形成の一部になる。様々な大人の断片を見て経験して、やがて物事の全体を把握できる大人に成長していく。しかしはっきりわかるということは、幸せと結びつかないこともいずれ知るだろう。

様々な断片を見てきたフキが、いつか光り輝く青空の下、クルーズ船上で満面の笑顔で踊っている姿を想像する断片。未来に希望を持っているフキに、よしと思った。

かな