「主人公フキに中学生の兄がいたらとふと考えてしまう ある意味 一人っ子についての映画 早川千絵監督のドライなユーモアのセンスが光る傑作」ルノワール Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公フキに中学生の兄がいたらとふと考えてしまう ある意味 一人っ子についての映画 早川千絵監督のドライなユーモアのセンスが光る傑作
よく「親は選べない」とか言いますが、子供時代の家庭環境を考えると「兄弟姉妹の配置とその中における自分のポジションは選べない」というのも、まあいろんな人がときには言いたくなるようなことだとは思います。この作品の主人公フキ(演: 鈴木唯)は一人っ子です。私は一人っ子ではありませんし、我が一族郎党を見渡しても3年以上一人っ子状態が続いた例は4親等内には一例もありませんので特に実例をよく知ってるわけではないのですが、一人っ子の友人はちらほらいますので、そこから推察するに、この映画内でのフキの言動は一人っ子の特徴を表しているようにも思えます。
この作品では父にリリー•フランキー、母に石田ひかりを配していますので、フキは両親が比較的高齢になってからできた子供であると言えます。また、母親が本作の舞台になっている’80年代後半には比較的珍しかった女性としての管理職に登用されていることから、キャリア志向が強かったとも推測され、この母親、比較的高齢であることも合わせてなかなか子育てにまでエネルギーが回らなかったことでしょう。年齢の離れた両親(友だちのちひろちゃんの家に遊びに行けば、ちひろちゃんも一人っ子みたいだけど、両親は自分のところより若い)、きょうだいはいない、学校が終わって家に帰ればカギっ子…… フキの家は生活に不自由してるようには見えないので(フキは英語塾に通わせてもらってます)、ネグレクトというには当たらないのですが、いわば、軽く精神的にネグレクトを受けている感じだったのかもしれません。フキは「みなしごになりたい」なんて作文を書いてたみたいですが、みなしごのような孤独を抱えているようにも見えます。
でも、フキは基本的に賢い子でそんな孤独をうまくあしらいながら生きていくコツを身につけてるようでもあります。口数はそんなに多くはないのですが、大人の顔色を読むのはそれなりにうまく社交的です。自分の父親が末期癌で死が近いのを知っていますが、父親がまだ諦めていないこと、母親がとっくに諦めてることも勘付いていて、父の回復を心から願っています。
でも…… この映画でのフキはなんだか人との縁が薄い子のように思えてきます。
そんなフキとその周辺を早川監督はちょっとドライなユーモアを交えながら淡々と描きます。私、実は『PLAN 75』を見逃してしまっていたので、早川監督はこれが初見だったのですが、この作品のそこかしこに散りばめられたユーモアには非常に好感を持ちました。爆笑というのではなくて、くすっ、にやりといった感じの笑い。こういうのって、日本映画ではなかなかお目にかかれないので貴重です。
ともあれ、フキは持ち前の好奇心の強さから、一人っ子、カギっ子ならではの危なっかしい冒険を経験することにもなりますが、なんとか切り抜けて、11歳小学5年生の夏が終わってゆきます。フキがお父さんの死について作文に書くのはいつになるのでしょうか。その作文を書いたとき、フキはまた大人への階段を一段登ったーーそんな気がします。