劇場公開日 2025年6月20日

「とてつもなく味わい深い作品」ルノワール Ouuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0とてつもなく味わい深い作品

2025年6月23日
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鑑賞方法:映画館

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早川千絵監督による映画『ルノワール』は、1980年代の日本を舞台に、11歳の少女・フキのひと夏の体験を、繊細かつ静謐なタッチで描き出した傑作である。

とはいえ、この作品は単なる少女の成長譚ではない。物語は直線的な時系列で語られるのではなく、相米慎二監督の映画「お引越し」をはじめ様々な作品からの引用、断片的で印象的なカットの連なりによって進行する。そこに見られるのは、日本の80年代にさまざまな表現領域で取り入れられたポストモダン的アプローチ、すなわち脱構築的なサンプリング、カット&リミックスの手法だ。

ビデオテープ、ロリコン文化、超能力、狼男、怪しげな民間療法……。こうした時代の記号の羅列が濃密に織り込まれ、80年代という時代の空気が再現される。そしてその中に、言葉では語りえない感情や傷が、ひっそりと浮かび上がってくる。この手法は、ジャン=リュック・ゴダールが80年代に行った映画言語の解体と再構築にも呼応しているようにも思える。

なかでも特筆すべきは、フキの「抑圧された哀しみ」が、劇中で直接語られることがないという点だ。フキは語らない。だがその沈黙の豊かさを、早川監督は映像と音の配置によって丁寧に、精緻に語っていく。それは「物語」ではなく、「構造そのものが語ってしまう」という、極めて現代的で冷徹な視点がある。
それはまさに早川千絵という作家の映像表現の真骨頂である。

——と、ここまでやや理屈めいたことを書いてきたが、後半、あの雨のシーン以降、フキの喪失と愛と哀しみが、ぐっと押し寄せてきて、涙が止まらなくなった。

名場面が幾重にも折り重なる、宝石箱のような映像体験。ぜひ劇場で、味わってほしい。

Ouu
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