「日常的なテーマと大胆な筆致」ルノワール ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
日常的なテーマと大胆な筆致
夢に見た情景を作文にしクラスで発表する。
達者なモチーフと表現力は教師も激賞するほどだが、
鑑賞者には現実なのか夢想なのかもわからない。
冒頭のシークエンスで数回繰り返され、
以降は、はてこれは本当に起きたことだろうかと
観ている側は疑心暗鬼に陥る。
突然喀血した父は末期癌と診断され
余命いくばくもない。
母親は怪しげな療法に頼り、
奇跡的な回復を願いつつも
諦念にも似た思いが一方に有る。
父親に懐く娘は、
母親の態度が受け入れられない。
少女のひと夏の成長譚。
綺麗なものには触れたくなるし、
好奇心は旺盛で、
初めて訪れた場所でも
あら捜しをするのを欠かさない。
見つけたものと起こした行動が、
結果後々の禍の種になっても、
彼女は後悔しているのかいないのか。
表情からは何ら読み取ることはできない。
無邪気さは併存する。
オカルトや超常現象に興味を持ち、
キャンプファイヤーでは『YMO』の〔ライディーン(1980年)〕で踊りまくる。
ああ、自分たちの頃にも
こうしたことはあったなと、懐かしさはある反面、
囲む社会には不穏さも。
世間知らずと無謀さが窮地を招くことはある。
それでも最悪の事態にならぬのは、
脚本/監督の『早川千絵』の主人公に対しての優しい眼差し。
それぞれのエピソードは
自身の体験を膨らませたものだからだろう。
本作のタイトルは、
最初は父親の病室に、
やがては
少女の部屋に飾られた『ルノワール』による
〔イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)〕の複製画から。
描かれた八歳の少女の肖像画は、
今では世界中で愛される一枚と言われている。
が、依頼した両親は、
この画を気に入らなかったと聞く。
それは今までの画家の描き方と
相当に異なっていたから。
{印象派}の特徴は(AIの纏めによると)、
光と色彩、そして一瞬の印象を捉えることを重視した画風。
風景や日常生活を明るい色彩と大胆な筆致で描いた、と
書かれている。
それはこの映画にも当てはまる。
色彩は鮮やかで、エピソードの一つ一つは静かに流れるもののいずれも印象的、
加えて記憶に残る。
各々は独立していても、
総覧した時に一人の少女のキャラクターが立ち上がる。
ただ、幾つもの素行から、
彼女を好きになるかどうかが、
評価の分かれ目なのだが。
『スーラ』の{点描}が
ある程度の距離を置かないと
何が描かれているのかも判然としないのと同様、
本作でも個人に寄り添い過ぎて
もやっとした作品に感じることは否めない。
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