「生と死と、好奇心と想像力と感受性と」ルノワール 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
生と死と、好奇心と想像力と感受性と
衝撃的な近未来映画『PLAN 75』で注目を集めた早川千絵監督の長編第2作でした。今回は11歳の少女・フキ(鈴木唯)を主人公に、末期がんを患い入退院を繰り返す父親(リリー・フランキー)との関係の中で、彼女が“死”に向き合いながら成長していく姿が描かれます。
『PLAN 75』同様、“死”が一つの大きなテーマにはなっているものの、本作には随所にコメディ要素やファンタジー的な表現も織り交ぜられており、重さと軽さが同居する独特の味わい深さを醸し出していました。物語の舞台は、一応携帯電話がまだ普及していなかった1980年代後半とされており、「伝言ダイヤル」の登場や、ナースキャップを着けた看護師の描写など、時代性を感じさせる一方で、母親(石田ひかり)が職場でのパワハラにより研修を命じられるという現代的なエピソードも含まれており、時間軸のねじれた世界観も非常に魅力的でした。
また、物語は冒頭、フキが殺されるというショッキングな展開から始まりますが、これは実は彼女の想像(作文)だったことが明かされ、その後も彼女の空想が物語の中にたびたび挿入されることで、現実と虚構が入り混じる巧みなシナリオ構成が光りました。
キャスティングも見事でした。母親が参加するパワハラ防止研修の講師として登場し、母と不倫関係になる男を演じた中島歩、そして伝言ダイヤルでフキを呼び出し手籠めにしようとする変態男を演じた坂東龍汰と、二枚目俳優があえてアンチモラルなキモい役柄に挑んでいた点が印象的でした。また、近年めざましい活躍を見せる河合優実も、夫を事故で亡くした女性役で短い登場ながら強烈な印象を残しました。さらに、物語の中ではこの“死んだ夫”の性癖が坂東演じる変態男へと引き継がれているなど、エピソード同士がミルフィーユのように重なり合い、緻密に構築されたシナリオの完成度には驚かされました。
リリー・フランキーも安定の演技を見せており、娘を深く愛する良き父親としての顔と、病床にありながら部下の企画書に赤を入れる“モーレツサラリーマン”としての一面を併せ持つ役柄を絶妙に演じています。加えて、その彼を陰でディスる部下の声をフキが聞いてしまうという展開もあり、彼のキャラクター性がさらに奥行きを増していました。
最後に、本作を観て思い出されたのは、相米慎二監督の『お引越し』でした。こちらも小学校高学年の少女が主人公で、両親との3人家族が描かれていました。『お引越し』では田畑智子が天才的な演技を見せましたが、本作の鈴木唯もそれに匹敵する存在感を放っていました。どちらもショートカットで、躍動する若さと溢れるエネルギーを全身で体現していた点も重なりました。鈴木唯の今後の活躍が非常に楽しみです。
そんな訳で、練りに練ったシナリオやファンタジックな世界観の描き方が素晴らしかった本作の評価は★4.6とします。