「ひと夏の経験をした割には、少女の成長が感じられない」ルノワール tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
ひと夏の経験をした割には、少女の成長が感じられない
冒頭、主人公と思われる少女が絞殺されてしまい、「えっ、こんな映画なの?」と驚かされる。やがて、これが、少女の夢を作文にしたものだと分かるのだが、ここまでの掴みは上々である。
この主人公、この他にも「孤児(みなしご)になりたい」という作文を書いたり、超能力や催眠術に興味を持っていたりと、かなりクセのある少女なのだが、どうやら、それは、父親が末期のがん患者で、「死」というものを身近に意識しているからなのかもしれないということが分かってくる。
彼女の母親も、また、相当なクセ者で、最後は家族と過ごせるようにと家に帰ってきた父親を、面倒を見切れないと病院に送り返すは、部下に対するパワハラの嫌疑でグループセラピーに強制参加させられるは、その指導員と不倫関係になり、彼の妻にたしなめられるはと、とても子供のお手本になるような大人ではない。
と、主人公に限らず、結構個性豊かな登場人物が出てくる割には、物語がなかなか転がり出さず、いつになっても何の話なのかがよく分からないのはどうしたことだろう?
主人公の少女は、自分の住んでいる集合住宅で、朝、喧嘩別れしたまま、その夕方に転落死してしまった夫のことを話す女性と知り合うのだが、喧嘩の原因となったビデオが、冒頭で主人公が観ていたビデオであったことが判明するものの、そのビデオが、どういう経緯で2つの家庭で観られることになったのかが分からないし、その話を聞いて、主人公がどう思ったのかも描かれることはない。
同様に、主人公が、友達になった少女の家で、彼女がある写真を見るように仕向けるのだが、それが、何の写真なのかがよく分からないし、後日、彼女が転校していった理由も不明のままである。
主人公が、伝言ダイヤルに手を染め、そこで知り合った若い男に会いに行っただけでなく、彼の家までノコノコ付いて行くくだりは、観客をハラハラさせる見せ場になっているのだが、こうした軽はずみな行動は、とても「好奇心旺盛」といった言葉で済ませられるものでなく、どうして、こんな非常識なエピソードを盛り込んだのかという疑問を感じざるを得ない。この時は、たまたま難を逃れることができたものの、こんな性格なら、彼女は、いつかは事件に巻き込まれて、無事に成人することはないだろうとさえ思ってしまった。
魔術を使って母親と不倫相手の絶縁を祈願したり、父親と一緒に競馬に出かけたり、父親をからかう若者を蹴飛ばしたり、父親と手をつないで河原を歩いたり、父親の病気の回復のために教祖様の儀式に参加したりと、主人公は、父親のことが大好きははずなのに、彼が亡くなった時に、あっけらかんとしていたところには、何を考えているのかよく分からない彼女らしさが出ていたとは思う。
ただ、それだけに、朝食の席に父親がいる夢を見て、涙を流していた彼女の寝顔には、グッとくるものを感じたし、こうした、彼女の心情が伺えるような描写は、もっとあってもよかったのではないかと思えてならない。
主人公が、迷い込んだ人けのない競馬場で、馬に向かって馬の鳴きまねをしたり、橋の上で雨に打たれていたところを父親に助けられたり、客船の上で外国人たちと踊りに興じていたりと、夢とも現実ともつかない描写も多く、それらが果たして必要だったのだろうかという疑問も残る。
結局、分からないことが多過ぎて、言いたいことも分からずじまいだったのだが、中でも、少女のひと夏の経験を描いた割には、彼女の「成長」を感じ取ることができなかったのは、残念としか言いようがない。
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