「「翻訳 松浦美奈」」リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
「翻訳 松浦美奈」
私にとって「信頼のおける映画字幕翻訳者」のお一人である松浦美奈さん。劇場鑑賞の際には、余程の理由がない限りエンドロールが終わるまで席を立つことをしないようにしていますが、字幕映画の場合、最後にクレジットされるのが字幕翻訳者。そこに「翻訳 松浦美奈」とあれば、いい映画だったと感じた気持ちに更なる「確信」くれます。(ちなみに字幕も当然に権利が伴うため、配信など別の形態では訳者が異なることが多いためご留意ください。)
本作はアメリカ合衆国の写真家・リー・ミラーの伝記映画。(いつものことながら)不勉強な私はこの方を全く存じ上げないままの鑑賞でしたが、映画は一人のジャーナリスト(ジョシュ・オコナー)によるインタビューに始まり、リー(ケイト・ウィンスレット)の回想で語られる1938年(南フランス)以降の「リーの人生」。戦争に伴う悲劇を簡潔に表現するストーリーと、演出としてのカメラワークの巧みさによって強く印象に残るシーンの数々。本作が長編映画初監督となるエレン・クラスですが、これまでの撮影監督としての実績を振り返ればなるほど、本作の撮影監督を務めるパベウ・エデルマンとの相乗効果で、そのアイディアや的確さを感じるカメラワークはさもありなんと頷けます。
そして、何と言ってもケイト・ウィンスレット。本作では製作にも名を連ねており、またその本気度が否応なしに伝わる演技は、リー・ミラーの偉業、そしてリーその人を「伝説」にする気概を強く感じます。エンドロールでは劇中のスナップショットと実際の写真の比較も見られ、リーの命を賭けたチャレンジ、そして自ら背負った使命を全うした事実を顧みることが出来、改めてその偉大さを感じて反芻します。
さらに、脇を固める面々も皆素晴らしい。まず一人挙げるならリーのバディとなり、時に精神的な支柱にもなるデイヴィッド・E・シャーマンを演じるアンディ・サムバーグ。自身ユダヤ人としてナチスの所業、そして列車や収容所に打ち捨てられたままの数えきれないほどの死体にも最後まで我を失うことなく、全てを世界に伝えるため立ち向かうジャーナリスト・デイヴィッド。「出来るやつ」であり且つ「こんないいやついないだろ」と思わせる人物像に、アンディの何とも言えない表情が相まって、彼の存在にリーはもとより、観ている私も壊れそうになる心を度々救われます。
そしてもう一人はリーの友人の一人、ソランジュ・ダヤンを演じるマリオン・コティヤール。大戦前の南フランスでのソランジュは大変に明るく前向きな印象。リーを良く解っていて愛しているのが真っ直ぐに伝わる裏表のない感じは、演じるマリオン自身と重なって大変に素敵なのですが、、その後リーとの「再会」シーンが正に両極で唖然。ナチス・ドイツに全てを奪われ、絶望の淵にいるソランジュ。やせ細り、心身ともに消耗しきっている姿を演じるマリオンに強い衝撃を受けます。
今までも少なからず戦場カメラマン・ジャーナリストが題材になる作品観てきましたが、本作はとても理解しやすく、そして大変に感情を揺さぶられる作品でした。リー・ミラー、そしてジャーナリストという仕事と役割に改めてリスペクトを捧げたい一作です。
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