「再出発バンドだからこその冷静な計算と爆発力」レッド・ツェッペリン ビカミング KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
再出発バンドだからこその冷静な計算と爆発力
リーダーのジミー・ペイジはいつでも喜んでゼッペリンの思い出を語るでしょうけれど、本人であってもバンドの魔法をめったに再現できるわけではない。2007年の再結成を貴重な成功例とすれば、この映画もメンバー各自が「今こそ語ろう」と歩調を合わせ、小さな奇跡を成し遂げている。
ゼッペリンは、ジミー・ペイジの周到な準備によって誕生したことが知られている。それでも軌道に乗るにはいろいろな偶然が作用したようだ。タイトル通り、「ビカミング」では奇跡のケミストリーの秘密が明かされるのだ。
ジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズはセッションミュージシャンとして蓄積した技術や経験を、今こそ表舞台で披露しようと考えたのだろう。
知性派の2人に対し、無名のロバート・プラントとジョン・ボーナムはバンドに肉体性や野性味を与えた。
最初のクライマックスはファーストアルバム1曲目の「グッド・タイムス・バッド・タイムス」。曲のブレイクでジョン・ボーナムの多彩なフレーズを聞かせたかったと語るジョーンズ。
特にアウトロは奔流のようなアンサンブルのなか、ボーナムのドラムが左右に駆け回る。4人それぞれが個性を爆発させながら、ゼッペリンという揺るぎない全体像が立ち上がってくる、まさにお披露目のような曲だ。
もう一つ、前面に出ていて嬉しかったのが「ランブル・オン」。静と動のコントラストがドラマチックで、フォーク風の出だしから中間部でリズムが跳ねまくる、後年のファンク路線を予告するような展開。プラントが作詞に目覚めた曲でもあると知った。
この2曲が当時のライブで取り上げられなかったのは、レコーディングアーティストとしての重要曲だったから。それだけに2007年の再結成では外せなかったのだと勝手に考えている(しかもオープニング2曲)。
このようにゼッペリンは一定のキャリアを持つ4人の個性を周到にまとめつつ、スリリングな魔法で爆発させたバンド。黒人音楽のいいところ取りをしたという意味でも、「再構成」の妙味が利いている。
経験から貪欲に謙虚に学び、したたかにチャンスを待ち、最良の仲間と個性を爆発させる。生き方の参考になるようなストーリーだが、観客はゼッペリンを直接経験した世代ばかり。若い人が見ないのはもったいない。
付け加えるなら、ラストをどこにするかこの映画は迷ってしまった様子。ロンドンに凱旋し、「父が見に来てくれて嬉しかった」(ジョーンズ)、「自分の素質を伸ばすよう努力することが大事」(ペイジ)と、まとめ方が普通過ぎ。「ランブル・オン」のシーンのように世界に飛び立つ終わり方でもよかったんじゃないかな。
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