チェルシーホテル : インタビュー
イーサン・ホーク インタビュー
田畑裕美
「このホテルのポジティブさとネガティブさ、両方を表現したかった」
──ニューヨークに初めて来たとき、チェルシー・ホテルに泊まったそうですが、そのときの印象はどうでした?
「この映画で一種のゴースト・ストーリーを語りたいと思ったんだけれど、僕が泊まったときは実際にゴーストを見たというより、その気配を感じたんだ。このホテル全体がゴーストでいっぱいだと感じた。ここの長い歴史、時間を感じたのかもしれない(チェルシー・ホテルは1884年竣工)。むかし、このホテルの裏のブロック全体が巨大なガーデンだったことを知ってる? どんなに美しかったろう……。このホテルにはポジティブなものとネガティブなものが両方ある。それをこの映画で表現したかったんだ」
──チェルシー・ホテルはマンハッタンにありながら異国的で、多くのボヘミアンを引きつけてきましたよね。
「うん、ここはボヘミアンのパラダイス、ボヘミアン・ライフにとっての聖パトリック教会かな。“もし君がカソリックなら町で一番大きな教会へ行け、もしボヘミアンになりたかったらチェルシー・ホテルに来い”って感じだね(笑)。ぼく自身はボヘミアン・ライフに憧れることはもうないけど。だって、ぼくの子供たちが始終ボヘーム(放浪)してるからね(笑)」
──映画に伝説的な歌手、ジミー・スコットが出てきますが、彼はここの雰囲気にぴったりですね。
「リトル・ジミー(とイーサンは呼ぶ)は本当にここに合ってるよね。彼に連絡したのはちょっとした偶然からなんだ。この映画の音楽を担当したウィルコのジェフ・トゥイーディが、こんな歌手がいる、というので、彼のステージを聞きに行った。魅了されたね。それで、是非にと頼んだら出てくれたんだ」
──彼の歌う姿から「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を思い出しました。
「そうだろうね。実際、この映画は『ブエナ~』からいろいろなものを学んでいるんだよ。あの映画はデジタルカメラで撮影した最高に美しい映画だと思う。あの色彩の美しさの理由を考えてみたんだけれど、ひとつはキューバということだ。キューバのあの真っ青な空、そこに色彩が映えるんだと思う。だから僕はこの映画の色彩設計に注意した。ユマ(詩人を夢見るウェイトレス役)の部屋は赤、若い恋人たちの部屋はブルー、クリス・クリストファーソン(中年の作家役)の部屋は無彩色を基調に……というふうにしたんだよ。
あと、アルフォンソ・キュアロンの映画も参考にしたよ。彼の『天国の口、終りの楽園。』は見た? すばらしいよね! 最近見たなかで最高の映画だよ」
──その映画を日本で配給する会社に言っておきます。喜びますよ。
「ぼく、宣伝してあげてもいいよ。その会社が、ぼくの映画に500万ドル出資してくれたらね(笑)」
──ご自分の小説は映画化しないんですか?
「正直いうと、そのことはいつもいつも考えてるんだ。映画化するなら、まず1作目の小説からだね。でもどうなるか。監督はまたぜひやってみたいんだけどね」
退廃的なビクトリアン・ゴシック様式のチェルシー・ホテル。その一室で熱っぽく語るイーサンの周りだけ清新な空気が漂っていた。このときの彼はスターではなく、映画作りに魅せられた一人の新人監督なのだった。