「カラックスらしい夢と記憶の万華鏡のような中編作」IT’S NOT ME イッツ・ノット・ミー 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
カラックスらしい夢と記憶の万華鏡のような中編作
42分間をカラックスらしい夢と記憶が縦横無尽に駆け抜けていく。「今どこにいる?」という問いから全てが始動したという本作。大多数にとってほんの一言で事足りる答えを、カラックスは根源まで突き詰め、内面を泳ぐように探究し、彼が生きてきた時代、世界、さらには映画のまばたきにまで思いを馳せる。その語り口は全く高飛車ではなく、遠くを望んでいるかと思えばごく身近な何かを見つめる、もしくは両者を同時に行っているかのような不可思議なリズムとタッチで貫かれている。溢れるほどの情報量のモンタージュも、決して意味不明だったり、難解だったり、哲学的すぎることはない。独白録でありながら独善的にならず、42分間きちんと娯楽作として観る者を刺激し、楽しませる。それでいて心に煌めきを遺す。おなじみの”あの人”もやっぱり登場する。全ては起きながら見る夢のよう。カラックスの紡ぐ夢をこれからも見続けたい。そう強く感じる中編作だ。
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