「誰も知らない/見てないとは“第10客室の女”の事ではなく、作品の方…?」第10客室の女 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
誰も知らない/見てないとは“第10客室の女”の事ではなく、作品の方…?
取材と休暇を兼ねて豪華ヨットに乗ったジャーナリストのローラ。
ある財団の富豪夫妻が主宰。ガンで余命僅かの妻アンネが財産の全額寄付を決め、友人セレブを集ったチャリティークルーズ。
パーティーも終わった夜、ローラは客室10の女性客が海に転落するのを目撃。報せるも、誰も見てないどころか、客室10は空室で、そんな乗客は居ないという…。
必死に真相を明らかにしようとするローラだが…。
これは…! 期待できそう!
海の上の密室で起きた謎の事件。アガサ・クリスティー作品(さらに言えば『ナイルに死す』)を彷彿。
ところが、ちょっと期待していたものと…。
答えは明白。“探偵は船上にいない”だから。名探偵が謎を解き明かしていく話ではない。
勿論真相を暴く展開でもあるが、誰も信じてくれない。密室、孤立無援、一癖二癖ある乗員の中で、一人追い詰められていくヒロイン。
旅客機が舞台だが以前あった『フライトプラン』のような極限状況下サスペンス。
つまらなくはなかった。
ヒロインの孤軍奮闘、命を狙われるスリルにドキドキ。
何かがおかしい。それとも、おかしいのは私なのか…?
そう思わせつつ、諦めない芯の強さ。ジャーナリストとしての正義もある。
ちょっと過剰気味でもあるが、過去のあるトラウマ。
キーラ・ナイトレイが熱演。
船上で再会した元恋人の記者。ローラを思っての事だが、彼女の過去の事などを不用心にも周りに喋ってしまうどころか、やっと彼女を信じた矢先、呆気なく殺されてしまう役立たずっぷり。
見るからに胡散臭い富豪夫リチャード、口も態度も悪いシンガー、お抱え医師…。船員も非協力的で、圧力とは言え冷淡な乗員たちにイラッ!
と言うか、乗った瞬間から嫌な雰囲気はあったけど。
ローラは船内で身を隠しているような一人の女性と出会う。
アンネかと思ったら、アンネではなかった。
リチャードに金で雇われたアンネの“影武者”。
財産の全額寄付に反対のリチャード。影武者を雇って内容を変え、財産は全て我が物に。
邪魔なアンネは…。ローラが目撃した女性こそ、本物のアンネ。
途中から分かってくる真相と犯人。ガイ・ピアースがイケワルぶりを魅せるが、ちとステレオタイプ。
ローラはアンネの影武者キャリーに真相を話すよう協力を乞うが、貧困で金で雇われているキャリーは拒む。
真相を掴んだのに、欲深い権力を前に屈するもどかしさ。であったが…、
クライマックスの展開やキャリーは原作小説から変えられているという。
原作ではキャリーはリチャードの愛人で、財産狙いで共謀。しかし映画では…。
映画は賛否両論。否定派の方が多い。この改変が評価の分かれ目になっているとか。
原作小説を読んでいないので何とも言えないが、原作通りだったらちょっと今の時代にそぐわない下世話サスペンスになっていただろうが、虐げられた女性たちの訴えにした事で現代風味。
原作既読者からすれば別物になってしまったかもしれないが、個人的にはこれはこれで。
ただ全体的に鮮やかな捻りも無く、ツッコミも目立つ。妻の影武者って…。幾ら何でも隠し通せるものではないだろう。
展開や犯人もすぐ分かる。
スリルはあるが、ミステリーとしては物足りない。作品としても期待以上のものではなかった。
誰も知らない/見てない劇中さながらではなく、地でいくような忘れ去られる作品になりそう…。
